偶然という名の運命 〜水晶に映る想い〜 |
「ティパの村のご一行、ただいま、ごとうちゃ・・、」
クノックフィエルナがそう言いながらフィオナのもとに走りよる。
しかしディアドラが後ろから突進してきたため、クノックフィエルナは転んでしまった。
その様子にフィオナはくすくすと笑う。シオンも笑った。
「落ち着きなさい、クノックフィエルナ!」
「・・大丈夫ですか・・?」
そういっているが、フィオナの声はおかしさで震えていた。
なかなか起き上がらないクノックフィエルナに、シオンは手を貸した。
クノックフィエルナは礼を言って、シオンの手につかまり立ち上がる。
今シオンは、フィオナに呼ばれてここ、アルフィタリア城にきていた。
事は今年最後のしずくを集めたときからだった。
「お手紙クポ〜〜。」
ミルラのしずくをケージたっぷりに集め終えると、
いつものとおり手紙を届けに、配達員のモーグリが来た。
「配るクポ!」
果たして誰から、どんな手紙かと思うとワクワクする。
一通の手紙をシオンの前に出して、モーグリは座り込んだ。
「えっ?!」
「どうしたクポ?」
送り主の部分を見てシオンは驚いた。どうしたのかとモグが近寄ってくる。
そしてモグは固まっているシオンに聞いてもしょうがないと思い、
送り主を見て、にやりとした。
送り主は、フィオナだった。
まさかフィオナから手紙が来るとは。
予期せぬ手紙にシオンはまだ固まっている。モグはニヤニヤ笑っていた。親父かお前は。
はっと我に返ったシオンがあわてて封を開けると、モグがのぞきこむ。
『拝啓 シオン様 どうもこんにちは、シオンさん。フィオナです。 ルダの村で最後にあなたとお話してから、お会いすることもなかったですね。 私は城に戻ったのですが、よく考えれば、何もお礼をせずに別れてしまって、 どうしても会いたいと思っていました。 シオンさんがいろいろと私に言ってくれたおかげで、 私は自分が何をするべきなのかわかりました。ですから、そのお礼をしたいと思います。 都合のよい日に、ぜひアルフィタリアに来てもらえないでしょうか。 クノックフィエルナもあなたに会いたいと言っていましたし。 それではここで。あなたが来てくださるのを楽しみにしています。 |
敬具 フィオナより』 |
とても丁寧に書いてあった。よく見れば封筒も便箋も立派である。
シオンはとても嬉しかった。でもシオンには何故かわからない。
彼は気がついていないが、ルダの村での一件以来、シオンはフィオナに会いづらかったのだ。
でも、フィオナから会いたいと、こうして手紙まで送ってくれた。
それがすごく嬉しくて。シオンは手紙を持つ手が震えた。
「どうするクポ?シオン。」
モグがそう問いかけてくる。もちろんシオンの答えは決まっていた。
紙とペンを出して、できるだけ丁寧に返事を書く。
『拝啓 フィオナ姫様へ こんにちは、フィオナ姫。ティパの村のシオンです。 今回あなた様が送ってくれた手紙を拝見し、ぜひそちらに向かいたいと思いました。 城に戻った、というあなた様の言葉を聞いて、とても安心しています。 きっとクノックフィエルナさんも喜んだでしょうね。 こちらは、もう今年のミルラのしずくを集め終え、時間もまだあるので、 近いうちにそちらに向かうことになるかと思います。 短いですが、あなた様に会えるのを楽しみにしています。 それでは。 |
敬具 シオン』 |
何回か読み直して、おかしいところがないか点検する。
何もおかしいところがないと思うと、シオンは一度うなずき、
それを丁寧にたたんで、封筒の中に入れる。
手紙をモーグリに預け、モーグリが行くのを見送る。
「やっぱり行くクポね。」
「えぇ。フィオナ姫から会いたいと言ってきてくださったんです。
会わなかったら失礼に値しますから。」
嬉しそうなシオンの言葉に、モグは満足そうな笑みを浮かべた。
そしてその数日後、シオンは約束どおりアルフィタリア城に来て、今に至るわけだ。
「キャラバンご苦労様でした。お時間のないところ、およびして申し訳ありませんでした。」
シオンがフィオナの前に行くと、フィオナは丁寧に言う。
シオンは頭を横に振った。時間はまだたくさんある。
「ただ、ひとこと、お礼が言いたくて・・・。
シオンさんの旅の様子を垣間見させていただきました。
家族を信じ、それをつらぬく姿に、わたしは、心を打たれたのです。」
優しい表情でフィオナが言う。
「シオンさんは、旅を続け、思い出をつむがれてますわよね?
私がつむがなければいけないもの・・・それは・・・・。」
そこで一度フィオナは言葉を切る。ためらうようにうつむいてから、また顔を上げた。
「それは、変わりなく続く平和・・・それが、王女としての役目・・・・。
人には、それぞれつむぐべきものがあるのだと、気づかせてくれたのは・・シオンさん、
あなたのようなクリスタルキャラバンです。
あなたは農場で、戸惑うわたしに、いろいろと教えてくれた・・・。
わたしにはやるべきことがあるんだと、やさしくさとしてくれた・・・。
わたしの迷いを断ち切ってくれて、ありがとう。」
そして丁寧に頭を下げる。シオンはあわてた。
「そんな・・フィオナ姫、僕はあなたのことを何もわからずに、そういっただけなんです。
気づいたのはあなた自身で、僕は何もしていません。だから・・・。」
その先が続かない。シオンはなんと言ったらいいのかわからない。
お礼を言われて、顔が赤らんだ。その様子をクノックフィエルナとモグがやさしく見守る。
「いいえ・・・・シオンさんがいたからこそ、わたしは今ここに戻ることができたんです。
本当に、ありがとう・・・。たいしたお礼はできないけれど、これを受け取ってくださいませんか?」
顔を上げたフィオナは、ゆっくり頭を横に振って、そういった。
そしてクノックフィエルナから何か袋を受け取って、シオンに渡した。
「・・ありがとうございます・・・。」
何も言えないまま、シオンはそれを受け取った。何が入っているのかわからない。
でも何故かとても重かった。疑問に思って袋の中身をのぞいて、シオンは仰天した。
「こ・・こんなのもらえません!」
あわててシオンはそれをフィオナに返そうとした。
しかしフィオナは受け取ってくれない。どうしても受け取って欲しい、そういわれた。
何分か、返します、いえ受け取ってください、という軽い言い合いがあったが、
その後シオンがとうとう折れて、それを受け取ることにした。
モグも途中から何でそんなにシオンが返そうとしたのだろうと疑問に思い、
中身をのぞいていた。しかしその袋の中身を見てさすがのモグも仰天していた。
「10万ギルなんて・・・。」
ため息をついて、シオンはぼそりとつぶやいた。フィオナはにこやかに笑う。
「あなたがしてくれたことは、わたしにはそれだけの価値があったんです。
今後とも、旅のご無事を祈っています。
これからも、よい思い出をつむいでいってくださいね。」
「・・・・・・・・・・・・はい。ありがとうございます。」
少し間を空けてから、シオンはフィオナの言葉にそう返した。
何故かその後沈黙が続く。
「・・・フィオナ姫。」
「・・はい?」
その沈黙に耐えられなかったのか。シオンがフィオナの名を呼んだ。
「・・あの・・その・・・・もし、お暇ができたときでいいんですが・・。
その時に、僕の村にぜひ遊びに来てください。」
もじもじとしながらシオンは、うつむいてそう言った。
フィオナの目がまんまるに見開かれる。モグはいいぞいいぞという風ににやけていた。
シオンは真っ赤になっていた。何でこんなこといったんだろう?
これから姫は忙しくなるというのに・・。
そうも思ったが、何故かそういいたくて。言ってしまった。
「・・・そうですね。ティパ半島には行ったことがないですし・・。」
その言葉を聞いてシオンは嬉しくなった。笑顔で顔を上げる。
フィオナ姫が村に来てくれるかもしれない。それだけで心が弾む。
「クノックフィエルナ、休みは取れるかしら?」
フィオナ姫がシオンからクノックフィエルナに視線を移す。
いきなり話を振られてクノックフィエルナは驚いたようだった。
「そうですなぁ・・・・これから先は忙しくなりそうですし・・。
あまり先に延ばすより、今日や明日行ったほうがいいかもしれません。」
手をあごに当てて少し考え込み、クノックフィエルナはそういった。
フィオナ姫がそれなら、と笑い、シオンのほうに向き直る。
「シオンさんは、今年のしずくはもう集まった、と手紙に書いてくれましたよね?」
「え・・・はい・・・。」
シオンが両手を胸の前で合わせて、笑顔で言う。
その笑顔に見とれていたのか、それとも戸惑っただけなのか。シオンはあいまいな返事をした。
「・・だとしたら、水かけ祭りをこれからやりますよね?」
「・・はぁ・・・そうですね・・・。リ・ティオとかが楽しみに待っていそうですし・・。」
フィオナに言われて、シオンは少し考えこむ。
帰ったらいつもと同じように、水かけ祭りをしてくれるだろう。
喜ぶ家族や村長たち、仲間の姿を思い浮かべると、自然と笑みがこぼれる。
「・・リ・ティオ・・?」
「あっ、フィオナ姫は知りませんよね。僕の村の仲間です。
僕が帰ってくると家族よりも先に迎えてくれる女の人なんです。」
ハテナを顔に浮かべてフィオナが言うと、シオンはそう返した。
いつも一番に迎えてくれる女の子。元気かな、とシオンは思う。
シオンは微笑んでいるが、フィオナの表情は曇った。シオンは気がついていない。
「・・・そうですか。」
「?」
しばらくして、さっきとは打って変わって不機嫌そうなフィオナに、わけがわからずシオンは首をかしげる。
「・・でも、水かけ祭りをするなら、ぜひ行きたいです。」
「えっ・・でも、ここの祭りよりもずっとわびしいですよ?人が多いとは言えないので・・・。」
「それでもいいんです。シオンさんの村の祭りを見てみたいんです。」
ちょっと間をあけて、フィオナがまた笑顔でいった。
くるくると表情を変えるフィオナに戸惑いつつ、シオンが答える。
すでにクノックフィエルナとモグは蚊帳の外。話に加われない。
「姫がいいのならそれでいいんですが・・・。出発は早いほうがいいですね。
クノックフィエルナさんもそう言っていましたし・・・・明日にします?」
「いいえ、もう今日出発しましょう。」
「え!?」
シオンが提案すると、フィオナは頭を横に振ってそういった。
その言葉にシオンだけでなくクノックフィエルナやモグも驚く。
「出発は早いほうがいいなら、もう今日行ったほうがいいでしょう?」
「・・し・・しかし姫様、兵も今すぐには集められないですし・・。」
「そうですよ。えっと・・・・。」
「あなたはそこまで私を監視したいんですか?それにシオンさんも味方する気ですか?」
「そ・・そうでなく・・・。」
「そうじゃないんですけど・・・。」
クノックフィエルナとシオンがあわてて止めようとする。
クノックフィエルナは護衛がしたいだけなのだが、フィオナは嫌がった。
シオンにとって不都合はないが、時間がかかるかもしれない。
日が少し傾きかけている。夜になるのはまずい。
「クノックフィエルナ、護衛はいりません。」
「しかし姫様・・もし街道でモンスターが出たら・・・。」
「シオンさんがいるんです、大丈夫ですよ。」
フィオナはクノックフィエルナを見て、ちょっと怒ったように言った。
クノックフィエルナはどうにかしてついていこうとするが、完全に押し負けている。
フィオナはシオンを見せつけるようにクノックフィエルナのほうに向ける。
確かにもうシオンはキャラバンとして6年目で、ベテランである。
ベテランなら兵士など要らない、というフィオナに、シオンも言葉がつまった。
フィオナはシオンの腕をつかんで、シオンの背中に回る。
子供っぽいが、それが何故かかわいらしく、シオンは赤くなれずにいられなかった。
「・・・・クノックフィエルナさん、僕が案内兼護衛を務めます。
安心してください。姫は必ず僕が守ります。」
フィオナに腕をつかまれているのが恥ずかしくて、
シオンは腕をつかむフィオナの手をやさしくはずして、クノックフィエルナにそういった。
シオンにまで言われては、クノックフィエルナも折れるしかない。
クノックフィエルナはため息をついた。
「仕方ないですな・・よろしくお願いします、シオン殿。」
シオンの手を握って、愛娘を送るかのように、クノックフィエルナはそういった。
フィオナは嬉しそうだ。兵士という存在がないなら、ゆっくりできると思ったのだろう。
「・・なるべく早く帰ってきてくだされ。」
「・・・・。」
クノックフィエルナがそういうと、フィオナは何も言わない。
クノックフィエルナは出かけるなら早く、といって、
フィオナ用に荷物を持たせる。さすがいつも一緒にいる人だというべきか、
クノックフィエルナはあっという間に、てきぱきと準備をやってしまった。
用意している間に、どこから出てきたのか他の兵士がフィオナを連れ、着替えさせた。
・・・・・・・・もちろんシオンには見えない場所で。
さすがにあのドレス姿で村に来ては、大騒ぎになってしまうだろう。
フィオナが旅をしていたときと同じ服装に着替えて戻ると、クノックフィエルナも荷物を抱えて戻ってきた。
シオンとモグはそれをボーーーっとみているだけだった。
「・・ではシオン殿、頼みましたよ。」
「わかりました。」
「姫様、どうぞお気をつけて。」
「シオンさんがいるから大丈夫ですよ。心配しないで。」
クノックフィエルナは2人にそういった。フィオナは嬉しそうだ。
シオンは2人っきりになることにどうしようもない恥ずかしさを感じて喜ぶどころではない。
(モグはついてくるが実質2人きりだろう)
人々に注目されながら、足早に2人はアルフィタリアを出た。
「何もあんなに急いで出なくてもよかったのではないですか?」
「そうクポ、シオン。時間はまだ充分あるクポ。」
「・・・・・。」
馬車の中で、シオンは顔が赤いままだった。
それに気づかずフィオナはそういって、モグはそれに気づきながらも意地悪に言った。
シオンは何を言ったらいいのかわからなくて、黙ったままである。
モグがその後「邪魔者は前にいるクポ」といって馬車をでると、
余計シオンは何を言ったらいいのかわからない。モグが恨めしくなる。
「・・・・・・シオンさん、もしかしたら一緒に行くの、嫌でした?」
「いっ・・いえ!とんでもないです!」
フィオナが心配そうな顔をしてシオンに近づく。
シオンはぶんぶんと顔と手を横に振って否定した。本当はすっごく嬉しいのだ。
たとえシオンにとってこれが村への帰り道でも、
たった1人の旅でなくなったことに対する嬉しさを感じる。
シオンはそう感じていたが、本当はフィオナが側にいてくれる嬉しさのほうが大きい。
シオンはまだフィオナに対する自分の気持ちが何なのかわかっていなかった。
「・・・・私、本当に嬉しいんです。」
自分からは何も話そうとしてくれないシオンに、フィオナはそう言った。
シオンがうつむいて真っ赤になったままの顔をフィオナに向ける。
「・・・クノックフィエルナは頼りになるけれど、少しうるさくて・・。
でもあの時から、私のことを信じて、今回も1人で行かせてくれた・・・。
それはシオンさんのおかげだって、ずっと感謝していたんです。」
「・・そんな・・・・。」
フィオナが微笑んで言う。シオンはまた恥ずかしくなった。
あの時というのは、ルダの村のときのことだろう。
嬉しくなるも、ド・ハッティとフィオナのことを思い出して、少しシオンは顔のほてりがおさまる。
「・・・・・アルフィタリア以外の人は誰も知らないんですけど、
私、クラヴァットとリルティのハーフなんですよ。」
「え・・・・!?」
その事実にシオンはかなり驚いた。どこかどの4種族とも違う感じはあったが、
まさかハーフとは知らなかった。
こんなに近くにいながら、まったく気がつかなかった自分が情けなくなる。
「私の父親がリルティで、今はいない私の母親がクラヴァットだったんです。
私はそんな2人の間に産まれた者・・。
しかしハーフといえど、それに気がつく人は外ではほとんどいませんでした。
私の体はほとんどクラヴァットの女性と変わりませんし、
リルティらしいところといえばこの髪と、青い瞳だけですから。」
フィオナが言いながらシオンに髪を見せる。
確かに後ろ髪はリルティのものそっくりだ。青い瞳もリルティの特徴である。
しかしぱっと見はクラヴァットのため、誰も気がつかなかったのだろう。シオンもだ。
「・・・・ハーフの私を、城や城下町では、疎ましく思っている人もいました。
リルティとクラヴァットが結ばれるなんてないことでしたから、物珍しいということもあったんでしょうね。
小さい頃から私には姫ということ以上に人から視線が集まり、罵られることもありました。」
視線を足元に落として、フィオナは静かに言う。
「・・・・・・・それでは、フィオナ姫はご両親のことがお嫌いなんですか・・?」
「・・確かにそう思ったこともたくさんありありました。
誰もわかってくれない苦痛に何度も泣いて、こんな苦しみを背負わせた両親を何度も恨んで・・・。
・・・そして今も、ハーフという存在が全員に認められているわけではありませんし。」
もう見えないアルフィタリア城の方向へ目を向けてフィオナは言った。
それは星空を見ているようでもある。しばしの沈黙。
「・・でもその姿が、この世界の未来をあらわしているようにも、僕は思えます。」
シオンが静かにそういった。フィオナが目線をシオンに移す。その目は丸く開かれていた。
「結ばれることなどない、そう思っていた異種族で結ばれることができたんです。
フィオナ姫のその姿は・・僕たちの種族はみんな分かり合えることができる。
そういうことを示しているのだと・・・・・僕はそう思います。」
シオンはフィオナを見据えて言う。その言葉をフィオナは真剣に聞いていた。
「認められないのは、皆さんが古い考えを捨てきれずにいるから・・。
頭に染み付いた習慣や考えはすぐには捨てきれません。
きっと、時間がかかると思います。他の種族の方に受け入れてもらうのは大変かもしれません。
・・でも、この世界の皆さんにその姿が認めてもらえたとき、
それは、僕達4種族が分かり合えたという印だと思うんです。
フィオナ姫のその姿は、フィオナ姫にとって確かに苦痛だったでしょう。
重荷だったでしょう。でも、あなたは4種族が分かり合える、
そういう考えに僕達がなること、そのひとつのきっかけになる素晴らしいものだと、僕は思います。」
言葉をできるだけ丁寧に選んで、シオンは言った。
『クラヴァットとリルティが仲良くできたのだから、他の種族とも仲良くできるだろう。』
そんな気持ちがフィオナの両親にはあったに違いない。
「・・フィオナ姫のご両親は、きっと誰よりも4種族が仲良くすることを望んでいたんですよ。
そしてそれをフィオナ姫が実現してくれると思って、あなたを産んだのです。」
最後にそう付け足す。少し自分の推定などがあって、確信とは言えないが。
自分の考えを言い終えて、シオンはフィオナの様子を見てぎょっとした。
「ひ、姫・・・!?」
「ご・・ごめんなさい・・・っ・・・。」
シオンはあわてて、ポケットからハンカチを出した。
それをフィオナに差し出すと、フィオナはそれを受け取って顔を覆った。
フィオナは、泣いていた。
「ごめんなさい・・僕の考えがあなたを傷つけるとは思ってなかったんです・・・。
僕・・僕・・フィオナ姫の気持ちなんて何一つわかってないのに・・ごめんなさい・・。」
気をつけたつもりでも、やはり軽率な言葉だったろうか。シオンは焦って謝る。
「ち・・違うんです・・・。」
嗚咽を漏らしながらフィオナが言うと、シオンは下げていた頭を上げた。
「ただ・・う・・嬉しくて・・・。」
ハンカチに顔をうずめたまま、フィオナはそういった。シオンの頭が困惑する。
「今まで・・・誰も、そんな風に考えて・・くれた人は・・いなかっ・・たんです・・。」
涙をぬぐって、フィオナはハンカチをシオンに返した。
シオンがハンカチを受け取る。ハンカチは確かに濡れていた。フィオナの目も少し赤くなっている。
「私は今も、どうしてもこの姿が恨めしくなるときがあって・・。
さっき、何か自分がしなくてはならないと思っても、
それは姫として、そういうことだけで・・この姿のことは・・何も考えられなくて・・。
誰も、相談にのってはくれなかったし、・・何も、言えなくて・・。
でも、でもシオンさんが・・・そう言ってくれたから・・・・・・。」
後半のほうは言葉が途切れ途切れで、またフィオナは泣きそうだった。
シオンは焦るが、焦るだけで他に何をしたらいいのかわからない。
ハンカチを出そうとしても、フィオナは頭を横に振って、いらないといった。
そして焦るシオンの顔色がまた変わる。
「・・・・ありがとう・・・・。」
「・・・っ・・!!!」
ぎゅっと、フィオナがシオンの体を抱きしめた。シオンの頭の中が真っ白になる。
引き離したらいいのか、抱きしめ返したらいいのかシオンにはわからず、
シオンの両腕は、フィオナが抱きついたことで倒れそうになる自分の体を支えるだけにとどまった。
きっと、戸惑っていたのだろう。
シオンは自分の胸に顔をうずめるフィオナを見てそう思った。
何かしたいと思っていたのは間違いない。でも何をしたらいいのかわからなかったのだろう。
故に迷うことしかできずにいたに違いない。
シオンは片方の手をフィオナの頭の上に乗せた。そしてゆっくりと頭をなでる。
高貴な身分の人にこんなことをしていいのかとシオンは考え、苦笑したが、
フィオナが笑顔になったのを見ると、その考えは吹き飛んだ。
幼い少女のような笑顔。とても愛らしくて、その姿に村で待っている仲間や、妹の笑顔が重なった。
「あの〜・・ラブラブなところ申し訳ないクポ・・でもついたクポよ・・・・。」
「!!!!!!!!!」
そして馬車の中にひょっこりとモグが顔を出していった。
今度は違う意味でシオンが硬直する。フィオナが真っ赤になりながらシオンから離れた。
いつの間にかティパの村に戻ってきていたらしい。
さっきのことをリ・ティオに見られていたら・・・シオンはそう考えて背筋がぞくぞくした。
「ここがシオンさんの村なんですね。」
恥ずかしさを無理やり振り切るように、フィオナは馬車から飛び降りた。
初めて見る田舎の景色。でもそれがとても美しく感じられ、フィオナは感嘆のため息を漏らす。
「そうなんです。モグ、ありがとう。」
「どうってことないクポっ。(いいモノ見られたクポ・・・)」
そしてシオンも慌ててフィオナのあとを追い、馬車から降りた。
ティパの村までパパオパマスを誘導させてくれたモグに対してお礼を言う。
モグはしっかりとさっきのシオンとフィオナの姿を見ていた。儲けだとでも思っているのだろう。
そんなモグの表情に2人はまったく気がつかなかった。いや、気がつける暇がなかった。
なぜなら。
「シーーーーーオーーーーーンーーーーーvvVvVVVvvVVvvvV会いたかった〜〜!!!!」
「うわぁああぁぁあぁあああぁぁぁあっ!!!!!」
フィオナの目の前をリ・ティオが閃光のように走り抜け、ものすごい勢いでシオンに抱きついたからである。
フィオナは目の前の光景に開いた口がふさがらず、
シオンはものすごい勢いで抱きつかれたため酷く体を地面に打って、痛みで動けずにいた。
リ・ティオはそんなフィオナやシオンの様子に気がつかず、
シオンが帰ってきた喜びを一方的にぶつけている。
「シオン〜〜お帰り〜!お帰り〜〜〜!やっと帰ってきたんだね〜〜〜!!」
「あの・・リオ・・痛いんですけど・・・。」
リ・ティオがハートオーラ全開でシオンに抱きついている中、シオンは痛みをこらえるのに精一杯であった。
ある意味ドラゴンゾンビより強い。乙女の恋心の強さをシオンはわかった気がした。
早く離れて欲しいのだが、一行にリ・ティオは離れようとしないし、
シオンも痛みをこらえるだけで何もいえなかった。フィオナはまだ驚いている。そんな中。
「ほらっ、離れてやれよ。シオンのやつ痛がってるだろ。」
ひょいとリ・ティオをシオンからどかした人物がいた。
「イルスぅ・・・・。」
「久しぶりだな、シオン。」
セルキーのラ・イルスだった。シオンの親友で、セルキーであるがゆえに美しい面立ちをしている。
久しぶりに親友の笑顔を見て、シオンは嬉しかった。
それよりも、やっとリ・ティオが離れてくれたほうが嬉しかったのか。
「・・・・それよりもさぁ、シオン。この人、誰?」
ラ・イルスにひっぺはがされて、やっとシオン以外のものが見えたリ・ティオは、フィオナを指差していった。
「申し遅れました・・私、フィ」
「わああああダメです!!!え、えと、フィー・ナさんです!セルキーの旅人なんです!」
フィオナがちょっとリ・ティオから後ずさりながら自己紹介をしようとすると、シオンは慌ててフィオナの口を押さえた。
このままもし『フィオナ』と言ってしまったらティパの村は大騒ぎになる。
それだけは避けたかったシオンは、適当にごまかして2人にそういった。
「へー、そうなんだ。綺麗だね・・・。」
「・・・・ふーん。セルキーの旅人か。珍しいな。」
「そ、そうですよね!僕も最初思ったんですけどとってもいい人なんですよ!」
かなり怪しかっただろうが、とりあえず詮索をしてこなかったので、シオンは安心した。
フィオナは何故名前を言ったらいけないのか、わけがわからずに疑問符を頭に浮かべていた。
シオンは安心していたせいか、リ・ティオがフィオナに少し火花を飛ばしていることには気がついていなかった。
(・・・・やっぱ女って怖いな・・。)
(嫉妬って恐ろしいクポ・・・。)
ラ・イルスとモグは気がついていたが。
「シオン、みんな待ってるんだぜ、お前のこと。
リ・ティオなんか馬車がちょっと見えただけで大はしゃぎしてたんだぜ?
『シオンが帰ってくるーvv』ってな。」
「うるさいなぁ!」
ラ・イルスがそういうと、リ・ティオがこぶしを握り、赤くなって反論する。
「ホントのことだろ?・・まぁいいやシオン、と・・フィー・ナさんだっけ?2人とも来いよ。水かけ祭り、早くやろうぜ。」
「あ・・うん。行きましょうか。」
「はい。」
ラ・イルスが村の奥に入っていくと、シオンもここの村のことは何も知らないフィオナの手をとって、それについていった。
「・・・・・。」
その様子を後ろから、リ・ティオが嫉妬満々の瞳でフィオナを見ていた。
シオンは家族や他の仲間から暖かな迎えを受けて、家族や他の仲間、そして――――フィオナに見守られながら、
たいまつの火を上げた。そしてローランが手を上げて・・・。
クリスタルが、清められた。
清められたクリスタルの美しさは、とても言葉では言えない。
シオンの家族も他の仲間も、フィオナも満足そうな笑みでその姿を見た。
・・・そしてここから楽しい水かけ祭りが始まる。
村の娘がパイをたくさん焼き、それを食べてから、いよいよ踊り始める。
楽団たちがおなじみの音楽を演奏し、村の者たちが踊り始める。
シオンはそれに混ざらず、クリスタルから少し離れた草の上に座って、それを見ているフィオナの側に座った。
「・・・田舎の水かけ祭りはつまらなかったですか?」
「いいえ。とても美しいですよ。」
シオンが恐る恐るそういうと、フィオナは頭を横に振り、微笑みながら言った。
シオンはその言葉を聞いて満足そうに微笑む。
2人は踊りに加わらず、ただ楽しそうに踊る姿や、明るい声を聞いているだけだった。
それだけでも、シオンは幸せで。
「・・・シオンさんは、やっぱり村の仲間の人たちと仲がいいんですね。」
「えっ・・・・そうですね。狭い村ですから、みんないつも一緒で、
兄弟同然に育ってきたんです。僕もやっぱりここに帰るとほっとします。
大切な人たちが笑顔で迎えてくれると、旅を続けてよかった・・って思えるんです。」
シオンは踊るリ・ティオやラ・イルス、そしてさっきは会わなかったティエルが踊っている姿を見た。
3人とも、シオンの大事な仲間であり、兄弟でもあった。
「・・うらやましいです。」
フィオナがそうぼそりとつぶやいたのをシオンは聞き逃さなかった。
その言葉にシオンは胸が痛む。
フィオナは王女であるがゆえに、いつも城の中にいたのだろう。
そのため、友達もろくにできなかったに違いない。思わずシオンは同情した。
フィオナに何か慰めの言葉を言いたかった。でも、偽善のようでいえなかった。
何よりも、同情していることがまず失礼だと思い、シオンは自責の念に駆られた。
「・・・・フィオ・・いえ、フィー・ナさん。」
沈黙が続いて、シオンはフィオナのほうを見て言った。フィオナが振り向く。
「僕たちも踊りましょうよ。フィー・ナさんは、もう孤独なんかじゃないんですから。」
シオンが立ち上がっていった。僕がいる、とは言えなかったが、すんなりと言葉は出てくれた。
シオンが手を差し伸べると、フィオナはまた嬉しそうに微笑み、うなずいて、シオンの手を取った。
踊りの輪の中に、シオンとフィオナが入り込む。
フィオナの手をシオンが引っ張って、意外にも踊りに慣れていないフィオナをリードした。
さっきから2人の様子をこっそりと見ていたラ・イルスは2人が一緒に踊っている姿を見て微笑んだ。
モグも満足そうに微笑む。ティエルも同じだ。
・・・・・・・・・そんな中、リ・ティオだけは仏頂面だった。
「姫を、ね。やるなぁ、シオン。」
「私も初めて見たときはびっくりしたわ・・。まさかアルフィタリアの姫をつれてくるなんて思っていなかったもの。」
「オレもだよ。本当に驚いた。」
踊りの輪から抜けたラ・イルスとティエルが、
草に腰を下ろして、よりそうようにしながら話していた。
リ・ティオだけは本当に気がついていないようだが、他の者は皆、
『フィー・ナ』が本当は誰であるかわかっていた。ずっと村にいるとはいえ、世間のことがわからないわけではない。
でも言わなかったのは、シオンが必死に隠そうとしていたからだ。
「あの目は惚れてるよな、完全に。」
「隠してるのか気づいてないのかわからないけど・・・シオン、隠し事下手だからね・・。」
ラ・イルスが嬉しそうなシオンの顔を見ながら言う。
もちろんラ・イルスはフィオナを見た時点で本人だとわかっていた。
そして小さな頃からシオンを見ているラ・イルスやティエルにとって、
シオンに対してわからないことなどほとんどない。
シオンが『恋心』を持つのは初めてだが、
今のシオンの様子が『恋をしている』ということぐらいはわかっていた。
「将来はあいつ、アルフィタリアに行っちまうのかな・・。」
「そうなると寂しくなるね・・・。」
「心配すんなよ、あいつ強いから大丈夫だって。」
思わずシオンがティパの村から永遠に離れるところを想像して、
ティエルの視界がぼやけてきた。それをラ・イルスが頭をなでてなだめる。
「気持ちはわからんでもないさ、けど、シオンの幸せを祈ってやろうぜ。」
「・・・うん。」
ラ・イルスがなだめながらそう言うと、ティエルはかすかにうなずいた。
その後2人は、特に何をするでもなく、シオンとフィオナを見ていた。
シオンが幸せになれるよう、クリスタルに願いをこめて。
そんな様子は、シオンに気づかれることはなかったのだが。
(フィオナ姫。)
心の中でフィオナを呼びながら、シオンは踊る。
(この気持ちが何かはまだわからないけど、僕は今すごく幸せです。
きっとフィオナ姫が側にいてくれているから・・・・・そう思います。)
目の前にフィオナの笑顔がある。それだけで幸せだった。
他の仲間や家族の笑顔を見るよりも、幸せだった。
それはフィオナも同じことである。
(ありがとう、シオンさん。)
フィオナも心の中で言った。
(私はもう泣き言は言いません。シオンさんを見ていると、そういう気持ちはみんなどこかへ消えてしまう。)
泣き言や弱気な言葉も、すべてシオンが包んでくれる。その優しい気持ちに甘えたくなる。
(このまま・・、)
(このまま・・、)
2人一緒にいられたらいい。
そう2人は感じていた。
・・・・・・・・・・・まだ、水かけ祭りは終わらない。
その様子を、クリスタルはやさしく見つめていた。
美しきその姿に、楽しそうに踊るシオンとフィオナを映して。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * ミニあとがき * * * * * * * * * * * * * * * * *
FFCCシリーズ第1弾の第3弾(わかりにくい)どうでしたでしょうか。
あーもうほのぼのラブな小説ってのはいじらしい!!(お前が書いてるんだよ)
シオンとフィオナが早くくっつけと思う今日この頃・・。
いや早くくっつけたきゃ早く書けばいいんですがね。
\-2やうぃらぶもまだあるのでそれはかなわないですね。
そして本編にないことを書くのは楽しい。
イベントよりくっつけさせられるからいいね。
まだ続きますよ、もちろん。
予定としては全部で8話ぐらいになる予定。
つまりあと5話ぐらい?(長ッ)もう少し短くなるかもしれませんが。
そして今回はリ・ティオ以外の人もきちんと喋りました。
このシリーズが終わったら、ラ・イルス×ティエルで新シリーズやりたいと思ってます(フフフ/怪)
リ・ティオでも何か書きたいな。
それでは長くなったのでここで。
毎度のとおりむぞうさ×フィオナの同志ができることを祈りつつ。
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