この物語は、シオンがキャラバンとして5年目の旅にでて、
まず最初にアルフィタリアに行ったことから始まったものである。







偶然という名の運命


〜柔らかな風〜














「えぇーい、邪魔じゃ!どけーーーっ!!」
「うわっ、ごめんなさい・・・!」
4年目の旅をはじめ、朝早くから街を歩いていたシオンが、大きな声に驚いて飛びのく。
その隣を、ぶつぶつといいながらリルティの兵士が通っていた。
「・・ずいぶん乱暴な兵士クポ・・・。」
「ダメですよ、モグ。そんなことをいっては・・・。」
ここはアルフィタリア盆地にある、アルフィタリア城。
シオンはここに食料の調達と、武器の精製のために来ていた。
「さすがアルフィタリア。僕の村と違って、何倍もの活気がありますね。」
周りを興奮気味にきょろきょろと見ながら、笑顔でシオンが言う。
シオンがいるティパの村とはやはり面積も人の数も違う。
4種族のあらゆる人々が集い、主に商業を中心としているこの街は、
やはり人の出入りが多く、リルティ中心に、商売をしているものが多い。
商売をしているリルティの、客引きの声も大きく聞こえる。
かつてこんなところにきたことがないシオンは、とても興奮していた。
もちろん、目新しい景色と声に誘惑されて、余計なものを買ったりしないようにしていた。



「ファム農場から野菜とかも来ているのでしょうかー、と思ったのに、お肉と魚だけですかぁ・・。」
「申し訳ないね、そういうのはやっぱり農場にしかないんだ。
 農場からここまでは遠いから、新鮮でなくなっちゃうんだって。」
食料調達のためにまずシオンは、リルティの女性がやっている店へときた。
しかし、あいにくシオンの好物である野菜、果物はなく、
あるのはシオンの大嫌いな肉と魚だけと聞いて、シオンは落ち込む。
「しょうがないクポ。嫌いなものも食べてみたらどうクポ?」
「・・・そうですね。じゃあ、お肉2切れとお魚を2尾、ミネを5個とミルクを3個お願いします。」
「はいはい。ありがとう!」
モグに促されて、シオンは仕方なくそういった。
嫌いでも、お腹はやはりすいてしまう。腹が減ってはミルラのしずくも集められない。
リルティの女性に、しぶしぶながらもお金を払い、
シオンは大嫌いな肉と魚、そして飲み物としてミルクを買った。
シオンやモグはいいが、パパオパマスは草食動物のため、どこかで野菜を手に入れる必要があるが。
「・・これでご飯には困らないでしょう・・・。あとは武器ですね。」



「おうっ、武器か。何を作ってほしいんだ?」
そういったあと、シオンは鍛冶屋に向かった。威勢のいい鍛冶屋のリルティが迎えてくれる。
「これを作ってほしいんです。」
そういってシオンは持っていた『たつじんの武器』のレシピを見せる。
「今までの武器ではもう戦うのが辛くて・・・・。」
そういってシオンは自分の武器であるセーフブレイドを見た。
しかしもう新品ではないし、これでは、もっと強大な敵と戦うときには弱すぎる。
「別にいいぜ。でも、材料は持ってるか?」
「はい。えーと・・・・
あーーーーーっ!!
そこでシオンが叫んだ。モグや周りの人がどうしたのかとシオンのほうを振り返る。
「・・どうした?」
「それが・・・。」
店主も話しかけてきた。シオンはがっくりとうなだれる。
「ミスリルはあるんですが・・・・こんごうせきがないんです・・・。」
そう、シオンの言うとおり、『たつじんの武器』でできるルーンブレイドの材料、
こんごうせきがないのだ。あったと思ったのに、もっていなかったようだ。
「そうか・・・それなら仕方がない。材料がなきゃ作れないな・・。」
「あーあ・・・。」
「仕方ないクポ。」
申し訳なさそうに店主が言う。シオンはうつむいてしまった。
それをモグがやさしく励ます。
「・・でもよ、こんごうせきなら、『ジャック・モキートの館』にいる敵から取れるはずだぜ!
 兄ちゃん、落ち込んでないで行ってみろよ。材料が手に入ったら持ってきな。すぐ作ってやるから!」
「はい・・わかりました。あの館ですね。」
落ち込みながらも、いつまでも落ち込んでいたらしょうがない。
シオンはレシピを返してもらい、アルフィタリア城の外に出た。



・・・しかし、入り口のほうで、さっきシオンにどけといった兵士が、落ち着きのない動きをしている。
「さっきの人クポ・・。どうしたクポ?」
「わからない・・でも、何か動揺してますね・・・?話しかけてみます。」
クポが疑問に思うと、シオンは言うと同時にリルティの兵士に近づく。
「あの・・・。」
「とほほ・・・いきなり姫様がいなくなられてしまった・・姫様はいったいどこへ・・?」
シオンが話しかけても、兵士は気がついていないようだ。
「あの・・?」
「何じゃ?もしやおぬしか!?」
「え!?」
いきなりわけのわからないことを言われて、シオンは思わず後ずさる。
「とぼけるな!まさかおぬしが姫様を誘拐したのか!?」
「そんな・・・。」
「馬鹿なこと言わないでほしいクポ!シオンはキャラバンクポ。
 キャラバンが姫様をさらって何をしようとするクポ!シオンはやってないクポ!」
覚えもないのにいきなり容疑をかけられて、何も言えないシオンの代わりにモグが反論する。
「・・そうか・・。すまなかった。えーと・・・。」
「シオンです。ティパの村のキャラバンです。」
兵士は落ち着きを取り戻して、シオンに深々と頭を下げる。シオンもなぜかつられて頭を下げた。
「シオン殿か・・。」
「ところで、姫様がいなくなったって、どういうことですか?」
「うむ・・・。ワシが街を巡回している間に、いつの間にか姫様が城からいなくなったと部下に伝えられてな。
 街にいるのでは、とワシも部下も思ったのじゃが、もういないようで・・。
 まったく、姫様を城にとどめさせることもできないなんて、ろくでもない部下じゃ!
 昔の者はみな頼もしかったというのに・・・・。」
途中で部下に対する愚痴も入ったが、姫様がいなくなったというのは本当らしい。
「城に閉じこもりっぱなしで、少し外を見たくなったのではないですか?」
「・・むむむ、確かにそうかもしれないが・・。しかし姫様を守るのがワシの役目。
 一言ワシに言ってくれてもよいものを・・・。」
シオンが最もらしいことを言うが、兵士には意味がないようだ。
「・・・・・・・もし僕の旅の途中でよいのでしたら、姫様を一緒にお探しします。」
「・・おお・・そうか!おぬしも姫様を探してくれるか!ありがとう!」
シオンがそういうと、兵士の目が輝いて、シオンの手を取った。
「ワシはあまり若くないのでな・・。君のような若者に探していただけると助かる。シオン殿、感謝しますぞ。」
「まだ見つけてもいないんですから・・お礼なんて。
 ところで、姫のお名前とあなたのお名前をお伺いしたいのですが・・・。」
「うむ。姫様の名は『フィオナ』と申す。金色の髪に青い目をしてるのじゃ。
 そしてワシの名は『クノックフィエルナ』じゃ。・・・しかし姫様はともかくなぜワシの名前まで?」
シオンは持っているポーチの中からペンを出し、日記のページを少し破った。
その切れ端に、クノックフィエルナから聞いた名前を書き込む。
その動作に、少しクノックフィエルナは疑問を持った。
「いえ・・・。姫様だとわかったとき、あなたの名前を言いまして、
 『心配してますから、一度連絡だけでも入れたほうがいいですよ』といったほうがいいかと思いまして。」
「なるほど・・・シオン殿がそこまで考えてくださっているとはありがたい。
 ワシの部下とは大違いじゃ。もし姫様を見つけたら、よろしくしておいてくだされ。」
「もちろんです。」
クノックフィエルナがそういうと、シオンはにっこり笑って、
まだシオンの手を握っていた彼の手を握りなおした。
そしてシオンは外にでる。クノックフィエルナの『姫様を頼みます』という声が聞こえた。
まずはこんごうせきのために、ジャック・モキートの館へ向かう。
































「・・・・・・・・・・何で、僕ってこんなに運が悪いんでしょう・・・。」
「しょうがないクポ。落ち込んだって意味無いクポ。」
ジャック・モキートの館から戻ったシオンは、とても落ち込んでいた。日はまだ高くない。
こんごうせきのためだけに行ったというのに、運悪く、どのモンスターもこんごうせきを落としてくれなかった。
すべての敵を倒したのにこんごうせきはなく、
アーティファクトも前得たものばかりで、新しく得れたものはなかった。
ここまでせんでもというほど収穫がなかったのだ。
収穫といえば敵から受けた傷と疲労だけ。だからシオンは落ち込んでいるのだ。
・・・・今年初めてのミルラのしずくが取れただけでも幸運だっただろうか。
「・・シオン。」
「何ですか?」
少しの沈黙のあと、まだ沈んでいるシオンに、思い出したようにモグが話しかける。
「こんごうせきなら、マール峠に行けば買えると思うクポ。」
「え・・・あ、そうですね。」
モグがそういうと、確かにとシオンがうなずく。
マール峠には、2年ごとに行商人が来るのだ。
そこなら、全部とは言えないが、結構な数の素材がそろう。こんごうせきも確かあった。
しかも今年はその行商人が来る年。お金は充分ある。
しかし、それなら何のために館に行ったのだろうか、とシオンは思ったのだが、
くよくよしていても仕方ない。シオンは少し考えて、決めた。
「よし、マール峠に行きましょう。ケージの属性はこのままで平気ですし。」
パパオパマスの綱を引っ張って、方向を変える。
ケージの属性と瘴気ストリームの属性があっていることを確かめ、シオンたちは瘴気ストリームを越えた。












「・・何回通っても慣れませんね・・・。」
ふぅ、と息を漏らして、瘴気ストリームをこえたあと、シオンはそういった。
あの体に押し付けてくる、瘴気の圧力。パパオパマスも少し疲れているようだ。
「早くマール峠に行って、素材と休みもかねていきましょう。」
モグとパパオパマスにそういって、シオンはマール峠へと歩く。
幸いというか、他のキャラバンやしましま盗賊団に会うこともなく、
まっすぐマール峠へとついた。












「あっ、やっぱりいますね。」
マール峠へとついて、疲れていたパパオパマスを休ませる。
逃げないようにしっかりと綱を木に結んで、念のためモグに見てもらうことにした。
ここには大きなクリスタルがあり、瘴気を払ってくれるため、ケージを持って歩くこともない。



「あの〜・・・買い物してもいいですか?」
そっと行商人のジ・メオンに近づき、シオンが言う。
「ああ、もちろんいいよ。何がほしいんだい?」
そういって、シオンが見やすいように、素材をいろいろとシートに並べてくれた。
「あの・・こんごうせきがほしいんです。」
「もちろんあるよ。これだね。250ギルだよ。」
シオンがもじもじしながら言うと、ジ・メオンは親切にも自分で素材を取り、
シオンの手にのせてくれた。もちろんシオンはそのまま逃げるということはせず、お金を払った。
「また来てくれよな。」
「はい。」
ジ・メオンが笑うと、シオンも笑う。
「そういえばさ、知ってる?」
「・・何をですか?」
そうしていると、客引きである女性の、テ・オドーがシオンに話しかけてきた。
もちろん今言われた言葉だけでは何かわからず、シオンは聞き返す。
「いやね、この前変わったセルキーの女の子を見たんだよ。
 服装がセルキーっぽいんだけど、金髪に青い目って言うセルキーっぽくない感じでさ。」
「金髪に青い目のセルキーですか・・・。」
「そう。君、何か知らない?」
テ・オドーが言ったことをシオンは繰り返す。そしてはっと思い出した。
さっきクノックフィエルナに言われたばかりのフィオナ姫の特徴。
セルキーといわれているが、それはきっと変装でもしているのだろう。
確かに変装ぐらいしなければ、姫がいきなり来たといわれててんやわんやになるはずだ。
リルティに似たような特徴もあるが、セルキーと見られていたのだ。
クラヴァット(は少数あるものの)にもセルキーにもない金髪と青い目、
間違いなくフィオナ姫だろう。シオンは確信した。
「・・どうしたんだ?」
「あっ・・いえ。何でもないです。そんな変わったセルキーもいるんだ、と思いまして。」
あまりにも考えていたからか、ジ・メオンが心配してシオンに話しかけた。
ここでそれはフィオナ姫だといってこの2人を混乱させるわけにも行かない、
と思ったシオンはそれを言わなかった。それでは、と2人に挨拶をして、足早にそこを去る。












「モグ・・モグっ!」
「どうしたクポ?急いでも素材は逃げないクポ。」
「そうじゃないですよ。」
シオンは早歩きでモグのところにきた。走ったほうがよかったのだが、誤って素材をどこかにぶつけたら大変だ。
いつもと少し違うシオンを少し不思議に思いながらも、モグは自然としていた。
「フィオナ姫は・・ここに来ていたんですよ。」
「そうなのクポ!?」
「うん・・もういなかったのですが。クノックフィエルナさんに伝えようと思いまして。」
いきなりフィオナ姫の手がかりをつかんで、さすがのモグも驚いた。
見つけたわけではないが、手がかりにはなる。そう考えたシオンは、
手に入れた材料で武器を作るのと一緒に、クノックフィエルナにそれを伝えるため、
もう一度アルフィタリアへの瘴気ストリームをこえた。














「ごめんなさい、パパオ。」
また負担をかけてしまったパパオパマスにシオンは謝り、城へとつく。
大急ぎで武器を作ってもらい、クノックフィエルナを探すが、どこにもいない。
「あの・・クノックフィエルナさんはどこに・・?」
近くにいた門番の兵士に聞いてみる。
「ああ、あの人ならさっき犬を連れてここをでていきました。
ディアドラっていって、姫を探すのに使うそうです。」
「まったく・・姫もひとりでいたいんだろうに、かわいそうだよな〜。
 まぁ、僕たちとしては、いつも侍従長にがみがみ言われていたから、少しはせいせいしてるけどね〜。」
「まったくですね。あの人はいつも昔の人たちと俺らを比べるのですから。」
遅かったか、とシオンはため息をついた。
しかし犬まで連れているのなら、姫を見つけるのは早いだろう。
この兵士の言うとおり本当に姫がひとりでいたかったならかわいそうだが、仕方がない。
シオンは「ありがとうございました」と頭を下げてその場を去る。
もう門番の2人は、侍従長の愚痴を言い合っていて、シオンがそこから去ったことも知らなかったが。
















「・・来ても意味なかったクポね。」
「そうですね・・まぁいいですよ。きっとあの人が見つけてくださりますよ。
 僕たちも絶対に見つけろといわれたわけではありませんし、ミルラのしずくを集めることにしましょう。
 ちょうどティダの村からしずくがほしかったところです。そこに行きましょう。」
「うえ〜・・・あそこ嫌クポ・・寒いし粘膜がねばねばするし・・。」
「仕方ありませんよ。ジェゴン川をわたって、セレパティオン洞窟に先に行ってもいいですが、
 またパパオパマスに負担をかけてしまいます。ティダの村のしずくを取って、
 ご飯を食べて、そこからジェゴン川をわたりましょう。
 お金はかかりますが、ジェゴン川を渡ればファム大農場でおいしい野菜や果物も食べられますしね。」
そういって、シオンはファム大農場に行くなら、肉や魚を買うんじゃなかったと後悔した。
ご飯を食べた後はあまりお金にならなくても農場で、腐らないうちにあれを売ろうと思いながら、
シオンはティダの村へと向かった。










































「うん、そんなに苦戦しませんでしたね。」
目立った傷もなくアームストロングを倒し、シオンはお昼にすることにした。もう日はすでに高い。
無事にミルラのしずくを採った後、馬車の外でご飯をつくる。
ティダの村は寒いので、買ったミネを入れ、馬車からなべを出して、火を起こし、スープを作る。
ミネは硬度が高いため、あまり料理には向かないが、
ティダの村にある水は粘膜だらけで、とても飲めたものでない。
モンスターはすべて倒してあるため、火をおこしてもモンスターが襲うことはないだろうし、
もしいても、シオンは自分のすぐそばにルーンブレイドを置いているため、
モンスターが近づいてきてもすぐに斬れるようにしてある。
これなら安心して料理を作ることができる。
シオンは早速料理に取り掛かることにした。肉以外の食料をミネできれいに洗う。
肉と魚を丁寧に切ってなべに入れ、馬車から油などを出して一度いためる。
その中にティダの村のモンスターからとったほしがたにんじんとひょうたんいもを入れ、
さらにいためる。(しかし肉や魚と同じくらいシオンはひょうたんいもが嫌いだった)
いため終わると、違うなべを出し、そこに水を入れて水を沸騰させる。
沸騰させたら肉と魚、ほしがたにんじんとひょうたんいもを煮て、
なべの中にしまってあった調味料を入れて煮込む。
料理上手なシオンはそれを全部1人でこなし、モグとパパオパマスはそれを見ているだけだった。
「できましたよ。」
「待ってたクポ〜〜。」
しばらくしてから、シオンの一声でモグが嬉しそうに飛んでくる。
「パパオにもあげますね。」
シオンはパパオパマスの前に大きめの容器を出し、その中にスープと具を入れた。
もちろんほしがたにんじんとひょうたんいもだけだ。具はひょうたんいもの割合のほうが大きい。
もう一つ出しておいた深めの容器には、ミルクがたくさん入っている。
ふーふーと吹いて、それを冷ます。
「はい、どうぞ。」
冷ましたあとそれをパパオパマスにあげると、パパオパマスは嬉しそうにそれを食べ始めた。
「おいしいですか?」
シオンが聞くと、パパオパマスは満足したように声を上げる。
よかったです、とシオンが言った。
「シオン〜モグも早く食べたいクポ〜〜〜お腹減って死んじゃうクポ〜〜。」
「オーバーですね・・わかりましたよ。」
モグがなべの前でうずうずとしている。
モグには手がないので、食べられないのだ。
直接口をつけてもいいのだが、今もなべを火にかけているため、とても熱いだろう。
あきれたようにため息を一つつき、シオンはモグの分のスープと具を入れた。
「シオン・・・嫌いだからってモグの分だけお肉と魚を多くしないでほしいクポ・・。」
うっ・・・僕だって食べますよ。」
さりげなく肉と魚を多く盛ったつもりだったが、モグにはわかってしまったようだった。
仕方なく自分の皿にもシオンは肉と魚を少し盛る。好物のほしがたにんじんは多めに盛ったが。
モグはビンからミルクを飲めないので、パパオパマスと同じように深めの皿にミルクを入れる。
シオンは洗い物を増やさないためビンのままだ。
「食べるクポ〜〜。」
「いただきます。」
モグは言うや否や食べ始める。とてもお腹がすいていたようだが、熱くないのだろうか。
そう思いながら、シオンは箸を肉につける。ため息をついて口に放り込む。
スープの味がしみこんでいて、スープはおいしいのだが、
やはり肉はおいしくない。シオンは顔をしかめる。
「やっぱり・・・あんまりおいしくないですね。」
「好き嫌いはよくないクポっ。」
「そうですが・・・。」
苦笑いしてそういうとクポに叱られる。
クポの皿がもう空っぽなことにシオンは驚きながら言葉を返す。
「おかわり」といったモグの皿と、同じく空になっていたパパオパマスの皿を取って、
もう一度シオンは具をよそった。シオンは自分の食事に戻り、
今度は大好きなほしがたにんじんを口に放り込む。
「うん、おいしい。」
今度は笑顔になったシオンを見てモグがため息をつく。
「シオンのお母さんが苦労するはずクポ」といいながら、モグは3杯目のおかわりをシオンに頼んだ。















「さて、次はファム大農場に行きましょう。」
「待ってクポ〜〜。」
食事も皿洗いも終え、火も始末して、シオンは立ち上がって言った。
言った言葉が心なしか嬉しそうである。
なべの中身はシオンの配分も正しく、全部食べてあったため、始末は楽であった。
(肉と魚はほとんどモグが食べた。野菜はシオンとパパオパマスで食べた。)
満足そうなパパオパマスをつれ、ティダの村を出る。












ジェゴン側までのあまり長くない道を歩く。モグは馬車に入るや否や寝てしまっている。
そして瘴気ストリームを越えて、ジェゴン側の東側へとでる。モグが起きた。
そこでトリスタンの姿を見つけ、話しかけようとする前に、シオンは違う人影に気がついた。
「・・・誰クポ?」
「さぁ・・・。誰でしょう?」
好奇心に駆られて、シオンとモグはその人影に近づく。柔らかな風が吹いた。




「・・・あなたは、クリスタルキャラバンですね?」




近づいてシオンは驚いた。声をかけられたのに驚いたのではなく、その人の容姿に。
「はい・・・えと・・あの・・・・・ティパの村の・・・・です・・。」
しどろもどろになりながらシオンは答える。その人は笑った。
テ・オドーとクノックフィエルナが言っていたのはこの人だ。見た瞬間にシオンは思った。
女性であるその人は、自分を何とも言えない目で見るシオンに首をかしげていた。
その女性は、リルティの髪のような金髪を後ろで束ね、セルキーのような服装をして、
クラヴァットのようなスタイルと、そして・・・・青い目をしていた。
「・・どうかしましたか?」
「いえ・・・あの・・。」
「あと足りないのはユークだけクポね・・・。」
「そういう問題じゃありませんっ。」
不思議がって話しかける女性の言葉にシオンは答えられず、
モグが寝ぼけているのか、とぼけているだけなのかわからないことを言う。
シオンは思わずツッこんだ。
「・・あなたは・・フィオナ姫・・ですよね?」
おずおずとシオンが聞くと、女性は少し驚いたような顔をして、またすぐ笑顔でうなずいた。
「はい。私がフィオナです。よろしく、ティパの方。」
きれいな笑顔で頭を下げるフィオナに、シオンも頭を下げる。
「あの・・クノックフィエルナさんが、探していましたよ。」
なんていったらいいのかわからず、それだけ答えると、フィオナの顔は曇った。
「・・私のことをクノックフィエルナに教えますか?」
「えっ・・・・それは心配していましたから、伝えるつもりですが・・・それが?」
曇った表情のままで言うフィオナに、シオンは戸惑う。モグは暇そうにしている。
「お願いします。私のことを伝えないでください。」
「・・何故ですか?」
「私・・・少しだけ世界を見て回りたくて・・・。
 でも兵士がいればいつも私に、危険だから城にいろというんです。
 私は城の真っ暗な中に閉じ込められたくない・・・だから、お願いします。」
真剣な目でフィオナは言った。王女であるがゆえ、いつも『籠の中の鳥』なのであろう。
その鳥の気持ちはわからないが、シオンにはつれて帰る義務も権利もないのだ。
「・・・わかりました。僕は見つけたら連れて帰ってほしい、といわれただけのこと・・。
 絶対に連れて帰れといわれたわけではありません。内緒にします。」
シオンが笑顔で言うと、フィオナも笑顔になって礼を述べた。
「ところであれは・・『船』ですよね。どこに行くのかしら・・・。」
いきなり話題を変えて、船を指差すフィオナ。何だか夢心地の感じがする。
「・・・船は、どこへでもいけます。陸と違って境がありませんから・・・。
 フィオナ姫は、境のない場所へと行きたいのですか?」
シオンがそういうと、フィオナは少し驚き、うなずく。
「えぇ・・・行きたいです。今まで城の中のことしか知らなかった。
 だから・・・・・船で、遠い、広い場所へといってみたい。」
夢見るように船を見るフィオナに、シオンは微笑んだ。
「僕は、これから川を渡って違うところへ行くところなんです。
 川はそれほど広くありませんが、向こう側へ行けば、早々見つかることもないと思います。
 よければ一緒に行きましょうか?」
手を差し伸べて微笑むシオンに、フィオナは戸惑いつつ、はい、といってシオンの手を取った。
シオンは満足そうに微笑んで、その手をつかんだままトリスタンのところへといく。
「何だか・・・面白そうクポ・・・。」
暇そうにしていたモグが意地悪い笑顔を浮かべて、シオンのあとについていく。もちろんパパオパマスも。
「すいません・・トリスタンさん。」
「ああ。話はずっとそこで聞いてたさ。あんたも乗るんだろ?」
フィオナの手を引いて、シオンはトリスタンに話しかけると、
トリスタンはフィオナを見てそういった。フィオナはうなずく。
「はい。だから川を渡るために2人で100ギル・・・、」
「いらねぇよ。今回だけタダだ。」
「ええっ!?」
シオンがフィオナの手を離し、財布を取り出そうとして驚いた。
『ぼったくり』と言われるほどお金を取るトリスタンが、いきなりタダだというとそれも怖い。
頭を打ったのか、とでもシオンは思った。
「何だ、とってほしいのか?」
「いえ・・そういうわけでなく・・・。」
「いいか、今回は金はとらねぇ。
 だけど、その嬢ちゃんをしっかりと連れて行ってやるんだな。わかったか?」
「は・・はぁ・・・。」
トリスタンに強気で攻められると、シオンは何も言えない。フィオナはくすくすと笑っている。
「わかったんなら早く乗れ。」
「・・わかりました。フィオナ姫、先に乗っていてください。」
トリスタンはぷいっと横を向いて船に乗ってしまった。
シオンは考えていても仕方ないと思い、フィオナを先にのせる。
それからパパオパマスを連れてきて、船の後ろに乗せた。モグはシオンのすぐ後ろにいる。
シオンが最後に船に乗り込み、トリスタンは船を動かした。





「・・きれい・・・。」
初めて見た船の上からの景色を見て、フィオナはそれだけ言った。
シオンはもう何回か見ている景色なので、何も感じない。シオンはフィオナを見つめている。
なぜフィオナを見ていたのかは、シオンもそのときはよくわからなかった。
景色よりもフィオナを見るのが珍しいからか、それとも・・・・。
「・・・私に何かついてますか?」
「いっ・・いえ!とんでもないです!」
あまりにも自分を見るシオンを見て、気になったのか景色から目を離してフィオナが言った。
改めて言われてなぜか無性に恥ずかしくなったシオンは、真っ赤になって否定した。
首をかしげながらも、フィオナが微笑んでいたことにシオンはまた恥ずかしさと安堵を感じる。





「おらっ、ついたぞ。」
いつの間にか向こう岸について、トリスタンが声をかける。
フィオナがはしゃぎ気味に降りて、シオンはパパオパマスを降ろしてから、
「ありがとうございました」と丁寧にトリスタンに頭を下げて降りる。
「どうですか、フィオナ姫?」
「ここに来るのははじめて・・・城の中はみんな同じ景色で、人工的だけど、
 ここはとてもきれい・・。やっぱり、自然は美しいと思います。」
「そうですね。僕も思います。」
シオンが微笑みながらフィオナに言うと、フィオナは笑顔でいった。
それを見てシオンは満足そうに思う。
クノックフィエルナには悪いが、もしさっきシオンがクノックフィエルナにフィオナの事を伝えていたら、
今頃フィオナは暗い表情で、こんな笑顔は見られなかっただろう。
「ここの近くにファム大農場があります。そこまでは遠くありませんから、一緒にどうですか?」
シオンがそういうと、フィオナは「喜んで」とうれしそうに言った。
「一度、どの村でもいいから、アルフィタリア以外の街や村を見てみたかったんです。」
無邪気に笑うフィオナにシオンは少し意外だと感じた。
フィオナなど、高貴な人のいるアルフィタリアでは、みんな冷静で、少し冷たい感じがした。
笑顔もそっけなく、他の村に比べてさびしい感じがした。
しかしこの姫はどうだろう。アルフィタリアにいる兵は少し冷たいけれど、
フィオナはそんなことがない。身分も決して高くないシオンと一緒にいるというのに、
それに対して何も感じていないようだ。しかも喜んでくれている。
連れてきてよかった、とシオンは心から思って、微笑んだ。
「いいクポねぇ・・・青春は・・・。」
馬車の中で、モグが誰に言うでもなく言った。視線の先にあるのはもちろんフィオナとシオン。
笑顔で話し合う2人を見て、モグは何を感じたのか。
それをシオンやフィオナは気づいてもいない。





























「こんにちは。」
ファム大農場について、シオンは真っ先に店を経営するニーナへと近づく。
フィオナは珍しいのか、辺りをきょろきょろと見回しながらシオンについていく。
「長旅お疲れ様。ファムで取れた新鮮な野菜や果物はいかが?」
「くださいっ。」
ニーナに言われて、すごくうれしそうにシオンは言った。モグはやれやれとため息をつく。
フィオナの顔がなぜか少し曇る。シオンは気がついていない。
「しましまリンゴ、ほしがたにんじん、すずなりチェリーににじいろぶどう、
 あっ、あとまんまるコーンとひょうたんいもをそれぞれ2個ずつお願いします。」
「はい。いつもありがとう。」
ここぞとばかりにシオンは好物のものばかりたくさん買い込む。
ひょうたんいもとまんまるコーンはパパオパマス用だ。
野菜と果物好きなシオンはよくここに来るため、ニーナに顔を覚えてもらっている。
全部で480ギルを払い、シオンは嬉しそうにフィオナの元に戻ってくる。
主食がない気もするが、それはいなかパンをティパの仲間から送ってもらったので大丈夫である。
「お待たせしま・・いえ、別に待ってませんよね。」
「いいえ。」
「・・・?」
フィオナの元に戻って、微笑んでそういうと、何故かぷいっとそっぽを向けられてしまった。
さっきまでは普通に話してくれたのに、そうする意味がわからず、シオンは首をかしげる。
「・・わかってないクポ・・・。」
モグがそうつぶやいた。





「・・のどかなところですね。」
少しして、機嫌を直したのか、フィオナは笑顔をシオンに向けてくれた。
シオンはそれに安心してうなずく。
「・・都会に住んでいると、やっぱりこういうところに憧れますか?」
「ええ・・・そうね。人工的なものが少なくて、やっぱり自然がきれいで・・。
 こういうところに少し、住んでみたいなという気もするの。」
シオンがそういうと、フィオナが寂しそうにいう。
城の中のことを思い出してしまったのか。しまったと思ってシオンはあわてる。
でも言葉が続けられない。
「でもやっぱり私は・・・・、」
王女だからあそこにいるしかない、とでも言おうとしたのか。
寂しそうな表情に、シオンはどうしたらいいのかわからない。



「・・・いるしかない、と思うから、辛いんじゃないですか・・・?」



少ししてからそういうと、フィオナは驚いたようにシオンを見た。
「僕にはそのような経験がないから・・・何もいえませんが・・・。
 城の中は確かに辛いかもしれません。寂しいかもしれません。
 ここみたいなのどかなところは、何も見つけられないと思います。
 だからこそ、ここみたいなところに憧れるのかもしれませんが・・・。」
ぽつり、ぽつりと、言葉を確かめるように言う。言葉を頭で必死に整理している。
「やっぱり都会には都会のよさがあって・・・。
 それに、あなたが城にいるのは、あなたが城にいて何かやらなければいけないこと、
・・・どういうものかはわかりませんが、そういうことがあるわけで・・・。
あなたにしかできないから、いてほしいだけで・・・。
あなたを人形みたいにただ閉じ込めているわけじゃないと思うんです・・・。」
そうシオンは言った。フィオナは黙って聞いている。
「言い方が悪いんですが、僕だって、好きでここにいるわけじゃないんです。
 元は、クリスタルキャラバンとして出されて、
その旅の食料調達のためにここにきただけで・・・。
 観光がしたいとか、そういうことじゃなくて、クリスタルキャラバンとして、
 僕の村を守らなければいけないから・・。それを果たすために、ここにいるんです。
 僕はやらなければいけないことがあるからここにいる。
 あなたのやるべきことを城でやってほしいから、兵はうるさいのかもしれませんね。」
シオンがそういうと、フィオナはまた微笑んで、そういった。
それは100%今の言葉を受け入れた笑顔ではないが、
少しでもわかってくれたのがうれしかった。
「そうかもしれない・・・・でも、今私には、やるべきことが何なのか、まだわからない・・。」
「いいんですよ、それでも。」
シオンがそういうと、フィオナはまた驚いた。
「・・外にいれば、それも見つかると思います。
 城の中ではきっとやるべきことは見つかりにくいと思います。
 でも、外にいれば、他の人たちの生き方もみられます。
 その人たちは何をやるためにここにいるのか。それをみていれば、
 おのずとあなたのやるべきことも見つかると、僕は思います。」
確証はありませんが、とシオンは自信なさげに付け加えた。
しかしフィオナはうれしそうだった。
「ええ・・・そうですね。私、弱気になりすぎていたのかもしれません。
 ・・・・ありがとう・・・。」
「いいえ。」
フィオナが笑顔でお礼を述べると、シオンも笑顔で答えた。
「では、僕はここの近くのしずくを取りたいので、外にでたいと思います。
 ・・・・あなたはどうしますか?」
シオンはそういって、ゆっくりと歩き始める。
そして思いついたように、フィオナのほうをみた。
「・・私は・・ここでもう少し、ここの人をみたいと思います。」
「そうですか。それでは・・、」
「あっ、待ってください。」
フィオナは少し戸惑い気味にそういった。シオンは笑顔である。
シオンは名残惜しいもののぐずぐずしていられないので去ろうとしたが、呼び止められた。
「・・何ですか?」
「あの・・お名前は・・・。」
何かあったかと振り向くと、フィオナはそういった。
言ってなかったかとシオンは考える。
「ティパの方、としか聞いていなかったので・・。」
不思議がるシオンを見て、フィオナはそう付け足した。シオンは合点がいく。







「・・・・・・・シオン、です。」







シオンが名を伝えると同時に柔らかな風が吹く。
それでは、と頭を下げて、シオンは外に向かった。
その後姿を、何に惹かれたのかフィオナは何も言わずに、シオンが見えなくなるまでずっと見続ける。




「・・気をつけてくださいね・・・。」
やっとのことで喉から言葉を搾り出したフィオナの声は、シオンには聞こえなかった。


























〜つづく〜


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ミニあとがき * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
調子に乗って書いたFFCCのシリーズ第一段目はどうでしょうか。
今回のサブタイトルは、『柔らかな風』なんですが、何でこれかというと、
シオンがフィオナを初めてみたとき。シオンがフィオナに名を明かしたとき。
その時2つとも『柔らかな風』が吹いているので、サブタイトルはこれなんです。
『王女失踪』とか言う安易なタイトルにはしたくなかったのもありますが・・・(汗)

目次のページにも書いてあるとおり、
とりあえずこの物語はシオン(むぞうさ)×フィオナで行きますので。
いや何でっていわれると迷うのですが、・・・・好きなCPなんです。たとえマイナーでも。
趣味150%でもそこのところを了承していただけるとありがたいです。

今回は本編のイベントにそって、多少つけたしをしています。
次回も本編にそってますね。途中からオリジナルになっていくかも。
次々回は間違いなくそうです(ぇ)
どこまで続くかはわかっていませんが、10話以内にはしたいと思っていますので。

それでは長くなったのでここら辺で。
同志が増えることを祈りつつ。





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