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ルクティアSSSジェイティアSSS


ルクティアSSS
※ルークが多少病んでいるので、ほのぼのルクティアが好きな方はお気を付けください。






「俺、時々ティアを殺したくなる」



馬鹿話に花を咲かせていたところで、急に調子を変えて、低音でルークが呟いた。
ポツリとした言葉でも、それはガイの動揺を誘うのには充分だった。
ガイ――いや、当人達以外――から見れば、お前それむしろわざとかと呆れるぐらい、ルークのティアへの想いはだだ漏れだ。
どんなときだろうと彼女を忘れない彼から、そんな言葉が出るとは。
長年親友としてやってきても、汲み取れない彼の意図に、ガイはしばし困惑する。
「ガイ、そんな目しなくても、ティアが嫌いだとか憎いとかそういう意味で言ったんじゃないから」
そんなガイを見かねてか、ルークが言う。
そんなのはわかってる。ガイは思わずそう言いそうになるのをこらえた。
そりゃ、変わる前でこそ本人の目の前で「冷血女!」とか平気で吐いていた人が、
ティアが魔物にやられた瞬間に激昂するほど、彼の態度は変わったのだから。
今更ルークがティアを嫌いに、ましてや憎むことなど無い。
それはわかっても、その先をどうしてもガイは掴みきれない。
「ルーク、何を考えてる?」
「・・別に何も。ただ・・ティアが欲しいなーって思ってるだけ」
最初の方で、何かルークの顔に翳りが見えたか、あえて気にしないでおく。
レムの塔の一件以来、ルークが何か隠し事をしている、きっとそれなのだろう。
彼が言いたくないのなら聞かない。それがガイだ。
だから今は、次の言葉の意味を考えるだけ。
「欲しい・・ってのは?」
「そのまんま。俺の側に置いて、俺のことだけ見てくれればいい、俺の事だけ考えてくれればいい。そゆこと」
ガイの真剣なものに対し、ルークの調子はかなり明るい。
しかし、ガイは何か背後に黒いものが流れている気がしてならない。
「『死』ってさ、いろんな悲しみを産むじゃん。
 死んだ人だって悲しいし、その人と親しかった人、皆悲しいじゃん」
今までの話からすれば、脱線したようなルークの言葉。
でもこれこそがルークの真意。ガイはそう思う。
「・・・だけど、一度してしまえば『死』は不変。『生』から『死』にはいけるけれど、逆は無理だ。
 『死』の事実は覆らない。戻らない。だからこそある意味での永遠になれる」
ガイは何も突っ込まない。が、胸の内はある種の恐怖と不安にざわめく。
「だから、俺が言ったのはそういう意味。
 ティアを殺したら、俺は2度とティアの笑顔を見れない。 一緒に『生』を生きることは無理になる。けど」
愛情と狂気は紙一重、と誰かが言っていたが・・今のルークはまさにそれだ。ガイはようやく意図を汲み取って恐怖する。
「ルー・・」


「そこで俺も死ねば、俺とティアは『死』と言う不変になれる。
 傲慢だとかそういう域を超えてるのはわかってる。
 けど思っちゃうんだ。そうすれば、一生ティアが俺のものになってくれる。
 『死』と言う不変が、俺とティアを結んでくれる、って」


そして一瞬見せた黒い笑み。一体彼に何が起きているのだろう。
隠し事に由来しているのかはわからないが、それをガイは知らない。
しばらくした後、ルークは「しないよ」といってくれたけど。
ガイは狂気じみたルークの愛情に、ただ恐怖を覚えるだけだった。



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ジェイティアSSS


「失礼致します」
ドアを叩き、短い挨拶の後、兵士がジェイドの執務室に入ってきた。
「・・・どうしました?」
「はっ。大佐に急なお客様がいらしたのですが・・」
ジェイドが兵士の方を向く。
兵士は一度敬礼し、用件を告げると、ジェイドは「この忙しいときに面倒くさい」とでも言いたげな微笑み。
「事前に連絡も取らずいきなりですか。・・どなたです?」
若干呆れ気味にジェイドが言う。
そこで兵士が名前を言うと、ジェイドは一瞬驚いたように目を開き、「わかりました、ご苦労様です」と、
短く兵士に言った後、ペンを離し立ち上がり、何と走って入り口の方に向かっていった。
あまりにも珍しい光景に、兵士は唖然とする。
「おい」
「はい!?」
しかし驚いている間に、後ろから声をかけられさらに驚く。
振り向けば、グランコクマの王がそこにいた。
「今ジェイドがものすごい勢いで外に行っていたけど・・ティアちゃんが来たのか?」
まず何で陛下が今ここにいると問いたいところだが、兵士は驚きの中にいてそんな言葉も見つからず、ただ頷いた。
「どうしてお分かりに?」
「ただジェイドが走ってるのが見えたからな。お前も随分驚いてたなぁ、仕方ないけど。
 ティアちゃんのことが関わるときだけ、あいつ走るからな。
 きっと先にも後にもあの子の事だけだろうさ」
「何故・・」
「何でだろうね。ただ親友としては、ちょっと寂しいもんだよな」
2つ目の質問を、ピオニーははぐらかした。
兵士もそれ以上は強く聞ける地位でもないし、黙り込む。


(フォミクリーの論理を組み立てたときは、こんなことになるとは思ってませんでしたが・・・)
ジェイドはいまだ走り、ティアを探しながら、ふと考える。
あの旅の最中、自分が見た中だけでもフォミクリーという技術が直接、
あるいは間接的に引き起こした罪や悲しみや死が、数知れないことは痛いほどわかる。
だからこそ今、フォミクリーをもっといい形で消化するための研究もしている。
そして今、ジェイドがティアに対して抱いている感情も、フォミクリーに傷つけられた彼女に対する負い目もあるのだろう。
まるで他人事のようにジェイドはそう考える。
彼女は、大切な兄、そしてルークを失った。
――ルークの場合はまだ可能性はあるものの、その確率はあまりにも低い――
エルドラントでの出来事の後、彼女は徐々に壊れてきている。
強がって強がって何とか保とうとしているだけで、
あるきっかけできっと彼女は再起不能なまでに壊れてしまいそうになる。
フォミクリー、ひいてはその理論を組み立てた自分の罪深さを、彼女を見るたびにジェイドは感じた。
だから、彼女が壊れないように何かしたいと、ジェイドは柄にも無く思う。
ガイのように癒しの言葉はかけられない。だって自分は冷たいから。
けれど、それでも何かしなければ。ただ、ジェイドはそう思う。
ルークが教えてくれた、傷ついた人に自分にできる精一杯のことをすること。
たとえ自分らしくなくても、それが今一番自分がしなければいけないこと。


そう考えた瞬間に、あの亜麻色の髪が視界を掠めた。

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