プラネタリウム 消えそうなくらい輝いてて 触れようと 手を伸ばしてみた 一番眩しい あの星の名前は 僕しか知らない 作詞・作曲 藤原基央 |
眠りというまどろみの中で。
夢を、見た気がした。
どんな夢だったっけ。
何か、大切なものに触れようとしていたんだけどな。
「・・・。」
目が覚めた。
「ご主人様、お目覚めですの?」
同時に、人の枕の脇で楽しそうに跳ねるミュウが目に入る。
いちいち相手にしているとウザイから、とりあえず無視。
俺は声もなく起き上がり、手持ち無沙汰に窓の外をぼぅっと見る。
寝ぼけた目に太陽の光は眩しくて、思わず目を細めた。
時刻はわからないけど、いつも通りなら多分、昼過ぎなんだろうな。
視線を部屋全体に移すと、メイドが置いていったのだろう、テーブルに料理が置いてあった。
そっか・・また退屈な一日を迎えたんだな。
はっきりしてきた意識の中で、一番にそう考える。
「ご主人様、どうしたですの?元気がないですの。最近ご主人様、ずっと暗い顔ですの〜〜。」
ため息をつくと、ミュウがそう言ってきた。
言ってくるだけならいいけど、それでまとわりついてくるからウザイ。
アブソーブゲートで、師匠を倒して半月。
俺とアッシュの超振動を使って、無事に外殻大地を魔界に下ろした後、みんなはそれぞれの家へと帰って行った。
当然、俺もそれに習ったんだけど、この屋敷は居心地が悪い。
「レプリカ」という目で俺を見るメイドや使用人達の目が、痛くて痛くてしょうがなかった。
けれど俺にとって、他に帰る場所なんてない。ここに帰るしかないんだ。
せめて、何かをして気を紛らわせることが出来ればいいのだけど、
ヴァン師匠がいないから剣の修行は出来ないし(まぁ・・当然だけど)、
ガイは父上に暇を出されて今ここにはいないし(戻ってきてくれるのかな)、
ミュウは話し相手にもならないし(話してるとウザくなって気づけばぶん回してる)。
はぁ、と俺はため息をついた。(ミュウが「ため息をつくと幸せが逃げるですの」と言っていた)
盆に乗ったパンを1つわしづかみして、口に運ぶ。
今日は何をしてこの一日を終わらせようか、と考えながら食べていると、ふと、本が目に入った。
俺の机には、父上や母上が買った教科書や、ガイが「これくらいなら」と持ってきた音機関の本やらが何とも無造作に積まれていた。
(ただ単に俺が整理しなかっただけだけど)
パンを飲み込み、目に付いたその本に手を伸ばす。
科学の本。
俺が10歳のとき――いや、実際は生まれたばっかのときだ――に教えられた教科の中で、
これが一番訳わからないものだったことぐらいしか、内容は覚えてない。
それなのに、俺は吸いつけられたように、この本に目がいっていた。
とったところで、何が見たいとか知りたいとか言う思いでとったわけじゃないから、
ぱらぱらと適当にめくった中にある、何とも難しげな文や図だけで、すぐに頭がこんがらがりそうになる。
何で俺はこんな本を手にとったんだろう、元に戻そうかな。
そう思い、俺は本をめくる手を止める。すると、ふとそこに、目を引く何かがあった。
『プラネタリウムの作り方』
タイトルにはそうあった。その下には、大きな絵が載っていて、
そこに完成品であろう、プラネタリウムがあった。
その美しさに、俺はこの本を元に戻す、という考えが一気に吹き飛んだ。
黒と青と白の3色だけで描かれたプラネタリウム。
それでも、俺の中でそれはすごく色鮮やかで。
だんだんと下に目を移していくと、事細やかに、プラネタリウムの作り方が書いてあった。
「・・・。」
作ってみたい。
そんな感情が、心の隙間に顔を出した。
なかなか簡単には出来そうにないが、それでこそつくりがいがあるだろうし、
作ることで時間がつぶせるなら一石二鳥だ。
「塩化ビニール製の半球、黒のカラースプレー、マジックペン、
カッター、画鋲、豆電球、接着剤・・。」
思い立ったら即。早速俺はそれを作り始めようと、材料の欄を読み上げる。
一瞬、こんなものがここにあるかと俺は迷ったけど、
何かを作るのが好きなガイの部屋なら、きっとあるだろう。
俺はそう考えて、ガイ(とペール)の部屋に向かった。
求めるものはすぐに見つかった。
あるとは思っていたけど、ちょっと驚きだ。
ガイはあまりにも大量すぎたのか、それともいずれ戻る気なのか、
ここを出て行くとき、何だかいろいろなものをここに置いていった。
(でも、大量にあるのに、整理だけはされている。さすがガイ)
それを今、助かると思うことになるとは。
俺は苦笑しながら、ガイの物をあさる。
父上やメイドに見つかったら怒られそうだから、とっとと見つけて、とっととずらかった。
多分今の俺は、屋敷に帰ってきてから今までないぐらい浮きだった足取りだったろう。
こんなにワクワクするのは久しぶりだった。
今なら、「レプリカ」の視線も痛くない。
(・・いや、やっぱちょっと痛いかも・・)
「えーっと・・『半球に緯度と経線を引く』・・。」
俺は部屋に戻って、閉じてしまわないように、足で押さえながら化学の教科書を脇に置く。
指定されているように、線を半球にマジックで引く。
できるだけ均等な線を引こうと頑張るけど、半球だからか、それとも俺の手が悪いのか、引いた線は少しガタガタだった。
でもまぁこんなもんだよな。普通。・・うん。
「次は・・『線を頼りに星図から星の位置を写し取る』・・。」
星図って何だっけ?と一瞬思ったけど、教科書にはちゃんとそれがあった。
黒に近い紺色に、白い点がたくさん置いてある。ふーん、これが星図か。
数からしてかなり時間がかかりそうだけど、不思議とめんどくさいとは思わなかった。
「オリオン・・ペガサス・・カシオペア・・ケフェウス・・・。」
まずは北から、黙々と点を写す俺。
不思議だな、こんなめんどくさいこと、前なら絶対やんなかっただろうに。
星の名前を声に出しながら、星座を一つずつ写していく。
そういえば、こんな名前を、遠い昔に聞いたことがあるような気がする。
多分教えられたものなんだろうけど、綺麗さっぱり忘れていたんだな。
そんなことを考えながら、文字通り「時が経つのも忘れ」て、俺はその作業に没頭していた。
「ふぅ・・。」
どのくらい経ったかな、日が傾き始めたか?いやもう傾いてるか。
ずいぶん時間がかかったな。今やっと全部の星座を写し終えたとこだってのに。
次に移る前に、もう一度星図と自分のを比べて、間違いがないか確かめる。
点は、少しずつずれたり、こすれてしまったりしているけれど、大体は大丈夫かな?
「あ・・やべっ・・・・。」
そう思ったところで、俺はひとつ、星を刻んでないのに気がついた。
普通なら最初に刻むであろう、その星――北極星――を、慌てて写す。
何だっけ、えーと?「北のほぼ一点に位置したまま、唯一動かない星」?
へぇ、そうだったっけ。知らなかった。
こんな有名そうな星、何で俺、最初にやらなかったんだろ。
・・・こんなことみんなに言ったら、また「何も知らない」って呆れられんのかな?
「・・・俺、みたいだな。」
ふと、そう思って、無意識にそう言葉を紡いで。動きを止める。
ある場所から、動かない星。
動こうとしていないだけ?
それともその場所が気持ちいいだけ?
動く星に囲まれているのに、たった一人だけ動けない。
変わらぬ景色に囲まれて、一人置いてけぼりのような。
北極星―――“ルーク”。
「・・・はっ。」
そこまで考えて、俺は自嘲気味に笑った。
星と自分を重ねるなんて、何考えてんだか。
「ご主人様?どうかしたですの?」
「何でもねぇよ。」
俺の脇でおとなしくしていた(っつーか邪魔しないようにそうしろって言っておいたんだけどな)ミュウが、
心配そうに俺の方を見てきた。俺は首を横に振りながら答える。
何気に人のことよく見てやがんな、こいつ。
さて、次は・・。
「『星の位置に穴を開ける』か・・。」
なるほど、これで画鋲が必要だったんだな。
何気に刺さると痛いから、先には気をつけて、写し終えた星座の上から、画鋲の先を通す。
ぷっ。ぷすっ。
ぷっ。ぷっ。
ぷすっ。ぷっ。ぷすっ。
不規則だけども、リズム感のある音が、小さく響く。
写した数がかなり多いから(躍起になってかなり細かくやってたらしい)、
穴を開けるにも時間がかかりそうだ。
でも何だか、楽しい。
「ご主人様、楽しそうですの。ミュウも手伝うですの。」
「え?――って何してんだこンのブタザルがッッ!!」
「みゅうぅぅぅ〜〜〜!」
・・どうやら、楽しいと思ったことは、表情に出ていたらしい。
ミュウが俺の顔を見て、自分も画鋲を持って、星なんてないところに、勝手に穴を開けた。
せっかく完璧にしようと頑張ってたのに、コノヤロー!
俺は立ち上がり、ぶんぶんぶんぶん久しぶりにミュウを大回転させた。
そう言えば、こういうことすると必ず、「ミュウがかわいそうよ」ってティアが止めたっけな。
・・・だー!何か知らんけど余計ムカツクーー!!
「ご主人様ー、ごめんなさいですの〜〜!目が回るですの〜〜〜!!」
ミュウのそんな声が耳に届いて、俺はやっと回転を止めた。
ミュウは完全に目を回したらしくて、俺がベッドに投げても、まだぐったりとしていた。
「ったく・・。」
ミュウは一体どこに穴を開けたんだ?
マジックがついていない点を見つけようと、目を凝らす。
するとそこは、北極星のすぐ隣。
そこに、名もない星が生まれていた。
“俺”の隣。
“俺”のすぐ側にある星。
「――――――ティア・・・・。」
そう考えて、名前を呼んだら。
思った以上に、苦しそうな、かすれたような声がでた。
ティア。
師匠を打ち倒そうと、俺の屋敷に乗り込んできて、タタル渓谷まで一緒に飛ばされた。
そのとき、俺に謝って、「必ずバチカルまで届ける」と、
首に大事そうに提げていた、高そうな宝石を、辻馬車の男に簡単に渡した。
人を斬ることに怯えて、動けなかった俺を、身を挺して守ってくれた。
俺が本気で変わりたいと思ったとき、「あなたを見てる」と言ってくれた。
うざかった俺を、きちんと叱ってくれた。
成り行きというのもあったけど、俺から離れたことはなかった。
いつだって俺の側で。
いつだって俺のすぐ隣で。
北極星が“ルーク”なら、この星は――――“ティア”?
そこまで思いを巡らせて、ぶんぶんと俺は、自分の頭を横に振る。
何で泣きそうになってるんだ俺は。
この星みたいに、ティアの側にいたいとでも思ってるのか?
それこそ“ばか”だろ。
そう思ったけれど、一度開いた穴をふさぐことは出来ない。それに。
ダメだ―――――“ティア”を消したくないよ。
そこまで考えて、急に恥ずかしくなって。
俺は頭を出来るだけ早く切り替えようとして、作業に没頭し始めた。
「あ゛〜〜〜・・・。」
それから数時間経っただろうか(うっわ、外がもう暗いや)、
やっと、俺の自作のプラネタリウムが完成した。
科学の本にあるものほど、綺麗には出来ていないけど。
ぐったりするような疲労感と共に、達成感がにじみ出てくる。
早速それを試そうと、豆電球の電源をONにしてセットし、カーテンを閉め、部屋の明かりを消す。
「・・おぉ・・・。」
そこで、何とも言えない感嘆の声がでた。
自分で作るって、なんていいことなんだろう。
こんなに綺麗だと思わなかった。
ところどころ歪んでいても、ずれていても、それでも、か細い光は綺麗で。
いつ復活したのかわからないミュウも、「綺麗ですの」と言っていた。
これは、俺の部屋に広がる宇宙だ。俺だけの世界なんだ。
「オリオン・・ペガサス・・カシオペア・・ケフェウス・・・。」
星座を写していたときと同じように、一つ一つ星の名前を呼ぶ。
形は歪んでいたけれど、確かにそれとわかる。・・嬉しい。
一回り自作の星座を見たところで、俺は“ルーク”に目を止める。
“ルーク”の隣には、他の星座から完全に外れている、“ティア”がある。
他の星座から離れてまで、“ルーク”の側にいてくれる。
――――ああ、また泣きそうになってる。
何故だろう、光の強さは変わらないのに。
消えそうなくらい輝いてて。
儚いぐらい美しくて。
動かない、俺の宇宙の中で、俺しか知らない名前。
どの星よりも“ルーク”に近くて。眩しくて。
愛しいひかり。
「ティア・・・。」
もうこの名前を、俺は消せないんだろうな。消せやしないだろう。
この輝きを、もう俺は手放すことが出来ない。
ティアともう一生会うことがないとしても、俺はその輝きを忘れられない。
・・・何か女々しいな。
自分自身が情けなくなって、プラネタリウムに近づいて。
“ティア”を塞ごうと、手を伸ばした。
そこで後悔した。
触れてしまったんだ。“ティア”に。
やめとけばよかった。
意識した瞬間に、旅で、ティアに触れたときのことを思い出してしまった。
俺よりもずっと華奢で、抱いたら簡単に腕の中に閉じ込められそうなほど、小さな体。
そのときはそう、ぼんやりと考えていただけだったけど。
それを思い出してしまった。
しかもそれは、痛みとして俺の中にとどまって。
もう、触れることもないかもしれない、ティアの体。
その愛しさを思い出した。
「う・・・。」
俺は、静かに涙を流した。
ティアが見たら何て言うんだろう。やっぱり“ばか”かなぁ。
そんなこと考えたら、余計に胸を締め付けられた。
ティア。
ティア。
触れたいよ。
「ティア。」
『何、ルーク?』
呼んだらすぐに振り向いてくれた。
いつも、手を伸ばせば、すぐに触れられる場所にいた。
「ティア・・。」
触れたいと思いながら、ティアの名前を呼ぶ。
ティアと同じ名前の、あの星に手を伸ばすけど、あの星はティアじゃない。
ミュウがその手で生んだ星。俺が願いをこめた星。
わかりきっている事実が、今は余計に悲しい。
「・・・!」
俺はたまらなくなって、窓のほうに走り、窓を開けた。
部屋一個分しかない小さな宇宙から、俺は現実に戻る。
上を見上げれば、本当の宇宙が広がっていた。
「オリオン・・ペガサス・・カシオペア・・ケフェウス・・・。」
俺が写したのと同じ形の星座が浮かぶ。
俺はその一つ一つの名前を呼んだ。
その後移した視線の先に、“俺”ではない北極星がある。
その隣に、他の星座から離れた、あの星はない。
「ティア・・・・・。」
いとしさとせつなさとかなしみをこめて。
もう一度俺はその名を呼んだ。
『何、ルーク?』
その声は聞こえない。
俺はその場で伏せてしまった。ミュウが心配そうに近寄ってくる。
時計を見れば、大きな宇宙の一日が、終わる刻。
なぁティア
もし俺達の世界が、本当にあの星達と同じだったら
“ルーク”はやっぱり北極星なのかな
そうだとしたら
どの星よりも眩しくて
どの星よりも愛しい
“ティア”という星を
俺は見つけることが出来るかな
もしみつけられたらそのときは あなたにふれてもいいですか
なぁ、ティア―――――――・・・・
Fin.
* * * * * * * * * * * * * * * * * ミニあとがき * * * * * * * * * * * * * * * *
内心バクバクしながら投稿サイトにて投稿したブツでございます。
今までFFキャラでしか書いていなかった小説ですが、
いや、何だか新鮮な感じがしました。
ルクティアは本編であんなにほぼ無意識なラブラブなくせに、
後半になるに連れてだんだん痛々しい恋になっていくので・・。
今回書きたかったのもその痛々しい片思いなので(ある意味S)
いや、でもすごく楽しかったです!
そのあの、自分ルクティア好きといっといて、
実はルーク→ティアという図がものすごく好物なのです(じゅるり/変態発見)
多分この先もルーク→ティアはかなり書いていく・・と思います。
ルクティアは・・・・(顔そらし/待てコラ)
そしてお分かりの方も多いかと思いますが、
この作品の題名「プラネタリウム」と歌詞は、
ご存知「BUMP OF CHICKEN」の名曲のひとつです。
アビスをクリアしてからこれを聴いたら、
もうルクティアソングに聴こえて仕方がなくなってしまい、
終始聴きながらこの作品を書いていました。
大好きな曲と、大好きなTOAをあわせて書いた作品です。
TOA・・というかルクティア好きだけでなく、
BUMP好きの方にも楽しんでいただけたら、と思います。
それではここまで読んでくださって、ありがとうございました。
06/5/5
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