カゼノネ
























この世界を包む“瘴気”。
瘴気の中で、この世界の人間たちは生きていけない。
その瘴気を払い、
人間達を守ってくれる“クリスタル”。
人間達はそのクリスタルの周りに村や町などをつくる。
クリスタルが瘴気を払ってくれる限り、人間達は安全である。




しかし、その力は永遠ではない。




一年ごとに、“ミルラの木”と呼ばれる木から少しずつ取れる“ミルラのしずく”で、
クリスタルを清めてやらなければならない。
クリスタルを清めなければ、クリスタルは輝きを失ってしまう。



しかしそのミルラの木は、“モンスター”と呼ばれる者が住む、
洞窟などにしか存在しない。
ミルラのしずくを手に入れるためには、
モンスターたちと戦って、しずくを手に入れなければならない。



“生”と“死”が隣り合わせの危険なこの旅。
この旅をする者達を“クリスタルキャラバン”という。
クリスタルキャラバンは、村ごとなどで一つずつ出される。
クリスタルキャラバンは、村で待っている者のため、必死にミルラのしずくを集める。






それは、ここ、“ティパの村”でもなんら変わりはない・・・・・・。



















「・・気をつけていってきなさい。」
ティパ半島の南部にあるティパの村。
その村の村長・ローランが、目の前にいる少年に言う。
「・・はい、行ってきます。村長さん。」
村長の前で、その少年はぺこりと頭を下げた。
「・・・ちゃんと帰ってきますから。」
そして視線を、ローランから自分の家族へと向ける。
「辛くなったら、帰ってきてもいいんだからね。」
「無理するんじゃないぞ。」
「お兄ちゃん、がんばってきてね!」
「キャラバンの話、聞かせてね!」
父親のアリオン、母親のクリスティ、妹のポーリー、そして弟のサムエルが、
口々にその少年の旅を応援する言葉をかける。
その言葉にその少年は力強くうなずいた。
「・・たとえしずくが取れなくても、きちんと帰ってきなさい。」
ローランが、もう一度、念を押すようにその少年に言った。
「・・・はい。」
少年はそう答える。そして、歩き出した。
その儚いような、力強いような、そんな不思議な後姿を、
ローランや家族は、心配そうに、そして誇らしそうに見送っていた。













クラヴァットの少年、シオンが15歳になったとき。
シオンは、ティパの村のたった一人のキャラバンとして選ばれた。
















カゼノネ















パパオパマスに荷物を持たせ、それを連れて、シオンはたった一人で道を歩く。
その手に持っているものは、ミルラのしずくを入れる入れ物、
そしてキャラバンを瘴気から守ってくれる“クリスタルケージ”がある。
シオンの目には迷いがない。
村にいるたくさんの仲間が、仕事のせいでキャラバンに参加できなくても、
それをシオンは恨みはしない。
大切な村の仲間、家族を守るため。迷いや寂しさを感じている暇はなかった。
「やぁ、ティパの村のキャラバンかね?」
「!」
いきなり話しかけられてシオンは驚く。
そこにいたのはリルティの兵士・・たぶんアルフィタリア城のキャラバンだろう。
「・・え・・・あの・・何か?」
名前しか聞いたことない城のキャラバンに話しかけられて、シオンは戸惑う。
「いや。初めてみる顔だから、新米キャラバンだと思ってな。」
「何か教えてあげられることはないかと、話しかけてみたのでふ。」
「・・はぁ・・・。」
シオンは何もいえない。
みんな同じ鎧と兜、小手をしているため、見分けがまったくつかないのだ。
「私の名前はソール=ラクト。アルフィタリア城のキャラバンでな。」
「・・あっ、僕はシオンと申します・・・・。」
自己紹介をされて、シオンも恐る恐る自己紹介をする。
「ここに旅をするモーグリのスティルツキンさんがちょうどいる。
 わたしたちも時々お世話になるほど博識でな。いろいろと教えてもらうといいだろう。
 われわれは話しかけておきながら、忙しいので失敬するが、
 スティルツキンさん、お願いいたします。」
「はぁ・・ありがとうございます。」
理解する前に話が進んで、とりあえずシオンは頭を下げる。
そしてアルフィタリア城のキャラバンが去ると、入れ替わるように、
一匹のモーグリが現れた。どうやらこれがスティルツキンらしい。
旅をする、というだけあって、後ろに背負っているバッグには地図が入っている。
頭にはトラの模様のバンダナを巻いていた。とても気さくそうなモーグリだった。

「・・・。」
「おう、新米キャラバンだな。
今紹介してもらったとおり、俺は世界を旅してるスティルツキンって言うんだ。
まぁ博識なんてもんじゃないさ・・・・旅をしてると何かと詳しくなっちまうだけさ。」
黙り込むシオンの前で、スティルツキンは自己紹介をする。
「・・どうした?気分でも悪いのか?」
「あっ、いえ、そんなことじゃないんです。」
「そうか。・・忙しい身かもしれないが、もしよかったら戦い方でも教えようか?」
「・・はい、よろしくお願いします。」
緊張しっぱなしのシオンに、スティルツキンはやさしく声をかけてくれた。
ここじゃ狭いから場所を変えようか、というスティルツキンにシオンは着いていく。



「うん、ここでいいだろ。」
そして、ティパの村から近いティパの港に着く。
そこの少し広くなっている砂浜で、スティルツキンはシオンに剣を構えるようにいう。
「剣はいちいち振っていたんじゃ時間がかかるし隙も大きい。
 体の流れに合わせて、リズムよく斬るんだ。
・・・・じゃ、あのゴブリンでそれを練習してみるか。」
シオンが剣を構えると、丁寧にスティルツキンがそう教えてくれた。
そしてどこからか現れたゴブリンで、練習するように言う。
「うわっ・・・!」
いきなり現れ、斬りかかってきたゴブリンの攻撃を、シオンは盾で受ける。
反撃せず、シオンは防御するので精一杯だった。
「盾で防ぐだけじゃ自分が傷つくのは防げてもモンスターは死なないぞ!
 隙を狙って剣で斬るんだ!」
スティルツキンがそう叫ぶ。
(そういわれても・・・)
防御し続けながら、シオンはそう思った。
耳には入ってくる。しかし動作に移せない。


これが、魔物。


練習であっても、シオンにとってその事実には重みがあった。
「くっ・・。」
何とかゴブリンから距離をとり、剣を大きく振り上げる。
「振りが大きい!振り上げている間に攻撃されるぞ!」
またも指摘される。
確かにスティルツキンの言うとおり、剣を振り上げている間にまたゴブリンが来る。
斬られる前に横っ飛びでそれを避け、
スティルツキンの言うことに従い、振りを小さくして斬った。
「よし!連続で行け!」
ゴブリンが反撃しようとする隙にシオンはゴブリンの後ろにすばやく回る。
そしてまた斬る。
「まだだ!」
体の流れに合わせて、もう一回。そしてまた一回。
「そうだ!うまいぞ、シオン!」
スティルツキンはそういって、ゴブリンを一回消す。
いきなりゴブリンが消えたことに、少し息を荒くしながらシオンが驚いて周りを見渡す。
「なかなかいいじゃないか。連続技も大丈夫そうだな。
 ・・・じゃ、次は魔法だ。」
スティルツキンはそういってシオンを構えなおさせる。
「魔法は魔石、ってやつを拾わないと使えないんだ。今回はファイアを使おう。
 魔石をおくから、これを拾え。」
そういってどこからかスティルツキンはファイアの魔石をシオンの前に出した。
初めてみる魔石に、シオンは戸惑う。
「さ、躊躇せずにそれを拾え、シオン。」
しかしスティルツキンに再度そう言われて、シオンはそれを拾った。
「・・よし。じゃあ今度はファイアを使って攻撃してみろ。」
そしてまたスティルツキンはゴブリンを出す。
ゴブリンが近づききる前に、シオンは詠唱をしだした。
魔石を拾い、それを使おうとすると、何もしていないのに詠唱の呪文が浮かんでくる。
「岩砕き、骸崩す、地に潜む者たち、集いて赤き炎となれ・・・・
『ファイア』!
そういってシオンはゴブリンに向かって魔法を放つ。
決して小さくはない炎がゴブリンを包む。
「うまいぞ!シオン!」
スティルツキンがそういった。
「少し休憩しよう。お前、なかなか筋がいいな。さすがキャラバンに選ばれただけある。
 魔石はまだもってな。」
スティルツキンがそういった後、またゴブリンを消す。
シオンは緊張から開放されて、へたへたと座り込む。情けないが、そうせずにはいられなかった。


「じゃ、今度は合体魔法だ。魔法を合体させると、より強力な魔法ができる。
 しかし、詠唱に時間はかかるし、魔石を二つ以上持たないとできないんだ。
 今回はファイアの上級魔法・・『ファイラ』をやってみよう。
 これを使いな。そして合体させるんだ。」
5分ほどの休憩の跡に、スティルツキンが言う。
ファイアの魔石をまだ持っていろ、といっていたのはこのためだ、とシオンは納得する。
そしてシオンの足元に、もう一つファイアの魔石を置いた。
その魔石をシオンは拾い、二つの魔石の効果を合わせる。
「行ったぞ!」
そうしている間に、スティルツキンがゴブリンをまた出したらしい。
ゴブリンはシオンに短剣を持って近づく。
合体魔法は時間がかかる、といったスティルツキンの言葉を思い出し、
わざとゴブリンに攻撃をさせ、それを避けた。こうして時間を稼ぐのだ。そして距離をとる。
時間を十分にとり、シオンは詠唱をし始める。詠唱の呪文が、また頭に浮かぶ。
「地の砂に眠りし火の力目覚め、緑なめる赤き舌となれ!
『ファイラ』!
魔法を放つ。先ほどより大きな炎がゴブリンを包み込む。
ゴブリンが苦しそうにうめき声を上げるのが聞こえた。
「上出来だ!・・・よーし、ここら辺でいいだろ!後は経験だ。」
そういってスティルツキンはゴブリンを消した。
「今回はファイアだったが、魔石はこの他にも、
 氷の魔法『ブリザド』、雷の魔法『サンダー』、癒しの魔法『ケアル』、
命の魔法『レイズ』、回復の魔法『クリア』がある。この魔法、魔石たちをうまく使え。
魔法が効かない敵ももちろんいるから、物理攻撃も磨いておくといいぞ。」
「・・ありがとうございます、スティルツキンさん。」
「へへっ、礼はいらないさ。シオンもよくやったぞ。」
スティルツキンの博識さに感嘆の声が漏れ、
キャラバンとして無知な自分にシオンは恥じらいを覚える。
シオンはお礼を述べ、握手の代わりにぽんぽんを触る。
それでは、と頭を下げて、シオンはクリスタルケージを抱えた。
「・・ちょいと待て、お前さん、一人で旅するのか?」
「・・・・はい・・・まぁ・・・。」
一人で行こうとするシオンを見て、驚いたようにスティルツキンが言った。
「・・誰もいないとは思ったが・・・。一人でケージも運んで戦うのはキツイぞ。」
「はい・・でも、村には僕以外にキャラバンになれた人はいなかったんです。」
仕方のないことだ、とでも言うようにシオンは言った。
「でもなぁ・・・・、そうだ!モグに手伝ってもらえ。それがいい。」
「は・・・?」
「おーい、モグ!」
意味がわからず、シオンがその場に突っ立っていると、
スティルツキンはそれにかまわず、モーグリらしい者の名を呼んだ。
「何クポ?」
そしてどこからか一匹のモーグリが飛んでくる。
「いやな、こいつがたった一人でキャラバンをやるっていうからさ。」
「そうクポ。それは大変クポ。」
「だからさ、お前、手伝ってあげられないか?」
「任せるクポ。君、君。モグがケージを持ってあげるクポ〜〜。」
スティルツキンとモーグリ・・モグが二人(二匹)で話し合う。
シオンが状況をつかめないでいると、モグが近づいてきて、
シオンの手からケージを取った。
「あ・・ありがとう。」
シオンは戸惑いながらも言う。
「モグはモグって言うクポ。君の名前は?」
「シオンといいます。」
「そうクポ。シオン、よろしくクポ。」
「うん。」
そして互いに自己紹介をした。
「うん。うん。じゃ、気をつけて行ってこいよ!」
「はい。」
スティルツキンが満足したようにうなずいて、シオンを見送った。
シオンが歩き出すと、モグもそれについていった。









「・・・モグ。」
「何クポ?」
歩いていていきなり話しかけられて、モグは少し戸惑いながら答える。
「・・・・僕は、たったひとりでも、必ずしずくを持って帰ります。
 大切な人たちが待ってるから。」

そう言った決意の言葉は、自分を後ろへと振り向かせないためか。

「・・・一緒にがんばるクポ。シオン。」
その言葉にモグは、やさしく返した。シオンが微笑む。



























そして、これから、ここから、
クラヴァットのシオンと、モーグリのモグの冒険が始まっていく。



















〜つづく〜




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ミニあとがき * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
シオンは自分がプレイしているキャラクターです。
そしてシングルモードだったのでモグがいます。
マルチでやったことはないので他のキャラクターはゲームにはいないのですが
(荷物持ちさえ作らなかった←意地)、
それじゃあまりにもかわいそうだろうと思って小説ではいます。
・・しかしマルチモードではなかったので結局シオン君は一人旅。ごめんね。

スティルツキンに戦い方を教わっている部分がすごく楽しかった。
緊張感のある戦闘はもっとよくかけるようになりたいです。

・・というかあのときのゴブリンHP(ホームページではない)ありすぎ。
アルティマニアで見たら999もあるそうです。スティルツキンはいったいどんな調教を・・?

それではシリーズのほうで会えたら会いましょう。



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