「へへっ、ちょろいもんだぜっ。」
真夜中に、1人の少年が、村を走り抜けていった。
美しき面立ちに、緑色の瞳。紫がかった灰色の髪、そして赤いバンダナ。
クリーム色の服が、月明かりに照らされて、白く光る。
その少年は、まだ小さなセルキーだった。
少年のその右手には、ラケットを。
少年のその左手には、クリスタルケージを持っていた。
「見てろよ、俺だってちゃんと戦えるんだからなっ!」
走りながら、一度だけ村に背を向けて少年は吐き捨てるように言った。
「あーばよっ!」
そして、用意しておいたパパオパマスをつれて、村の外にでてしまった。
「いい天気ですねー。」
「のんきクポ・・。」
街道を、のんびりとシオンが歩いていた。
まぶしいほど明るい太陽は、キャラバン達の旅を応援してくれているのだろうか。
シオンは、キャラバンとして3年目の旅にでている。
一昨年は新米キャラバンで、スティルツキンや他のキャラバンたちに、たっぷりとお世話になった。
去年は2年目といえどまだまだわからないことだらけで、
ファム大農場のキャラバンに農耕について教えてもらったり、
シェラの里のキャラバンに魔物について教えてもらったり、
時にはうっかりしていて、しましま盗賊団にしましまリンゴを奪われたこともあった。
右も左もわからなかった1、2年目だったが、今は少し違う。
戦い方は2年を通してわかってきたし、体力もついたはずだ。
魔物を目の前にしたって、おびえることはほとんどない。
たった1人のキャラバンであるシオンは、もちろん何もかも1人でやるため、
家事の腕も上がったように思える。
空っぽのケージを抱えて、シオンはのんびりと歩いていた。
村から出たばかりなので、リバーベル街道がすぐそこに、ちらちらと見える。
「・・2年経ってますから、しずくが取れるはずですよね。」
シオンはそう言って、確実にしずくが取れる、リバーベル街道に行くことにした。
「・・あれ?先客ですかね・・?」
「珍しいクポ〜〜。」
リバーベル街道の前に、すでにどこかのキャラバンのものであろう馬車があった。
パパオパマスの外見や、馬車の外側だけでは、どこのキャラバンのものかわからない。
中に人はいないようなので、多分リバーベル街道に入っていったのであろう。
それにしても、街道で会うことは多々あるが、
こうしてダンジョンなどの前で他のキャラバンがいることは珍しかった。
「ふむん。」
シオンは首をひねって、少し悩んだ。悩むことなどないはずだが、何故か入りづらい。
ミルラの木の所にキャラバンが来て、またすぐに他のキャラバンが来ても、
ミルラの木はミルラのしずくを与えてくれるのだが、
いかんせん珍しいことだったので、少しシオンは戸惑った。
また、ミルラのしずくは取れても、宝箱にあるアーティファクトなどが、
すぐに復活するとも思えなかった。ついでに言うと魔物もだ。
最も魔物の場合、倒されていたほうが楽は楽なのだが。何だか申し訳ない。
「どうするクポ?シオン。」
モーグリのモグにそういわれて、シオンはもう一度首をひねったあと、
「・・行きましょう。ミルラのしずくが取れればいいです。」
そういった。組んでいた両腕を解く。
「でも、アーティファクトとかが取れなかったらどうするクポ?」
「いざとなったら横取りしますかね・・。」
「・・シ、シオン?」
「嘘ですよ。」
モグが一応そう聞くと、さらりとシオンはそう返した。
おびえたモグに、シオンは手をひらひらと振る。
いつも冗談など言わないだけに、冗談に聞こえずに怖い。
「行きましょう。ぐずぐずしているのは嫌いです。」
シオンは馬車から武器や防具等を出し、モグにケージを持たせた。
馬車を手ごろな木に結んで、パパオパマスに手を振り、
シオンはリバーベル街道へと入っていった。
「・・な、何ですか?これ・・・?」
「モグに聞かれてもわからないクポ・・。」
数分後、少し間の抜けた声をシオンが出した。
魔物はうじゃうじゃいる。しかし、宝箱の中身などは抜かれていて、何もない。
間違いなく誰かが通ったのだが、レシピなどはなく、モンスターだけがいるのだ。
「困りましたねぇ・・。」
宝箱を開けて、空だったことを確認し、閉める。
敵は倒されていないので、敵からはアイテムや魔石が手に入れられたのは幸いだが、
自身を強化するためのレシピはなく、シオンはため息をつく。
「・・まぁ、魔石があればいいですね。」
拾ったケアルの魔石を装備し、一息つく。
相手はゴブリンばかりなので特に怪我は負わない。
負っても、擦り傷や軽い打撲で、ケアルで簡単に治せた。
ここがリバーベル街道でよかった、とシオンは思った。
もしここがカトゥリゲス鉱山やゴブリンの壁だったら、もっと辛かっただろう。
「・・・おかしいですね・・。」
少し高くなっているところに腰をおろし、下を見る。
敵は、シオンが綺麗さっぱり掃除してしまった。
宝箱はすべて空っぽだ。
他のキャラバンが通ったのはいいが、宝箱の中身を取るなら、
せめて敵も少しは倒していって欲しかった・・とシオンは思う。
短時間でモンスターだけが復活する、というのなら別にいいのだが、やはりおかしいだろう。
もしモンスターが復活していないのだったら、
そのキャラバンはずっと逃げ回っているのだ。今も魔物に追いかけられているかもしれない。
だとしたら、2人以上は考えにくい。
2人以上だと、誰かがケージを持って歩かなければならない。
ケージは結構大きいので、ケージを持てば、走ることはほぼ無理だろう。
シオンのようにモグが持っているのなら、思いっきり走れるのだが。
それにしても、まったく戦わないキャラバンは珍しいな、とシオンは思った。
「ふぅ・・。」
小さくため息をついたところで。
「うわあああっ!!」
「!?」
「誰クポ?!」
声が聞こえた。声からして男性だ。
声が聞こえた方向は・・・・リバーベル街道のボス、
ジャイアントクラブがいるところ。シオンは考える間もなく走り出した。
クラヴァットといえど、足はかなり速くなった。慌ててモグがその後を追う。
だんだんと大きな滝つぼが見えてくる。
赤いものが何か動いていた。ジャイアントクラブに違いない。
がさがさと動きつつ、何かを追っている。多分、シオンのすぐ前にここを通ったキャラバンのはずだ。
「だ、誰か!」
声がすっかりおびえているように思える。なんとも情けない。
人を呼んでいるということは、多分他に仲間はいないだろう。
シオンは速度を上げて、ジャイアントクラブを目の前に見据えると、飛び上がった。
ザスッ!!!
剣が見事ジャイアントクラブに刺さる。
「まばゆき光彩を刃となして、地を引き裂かん!『サンダー』!!」
ジャイアントクラブがうめき、シオンを振り落とそうとした。
体を上下左右に振られる衝撃に耐えつつ、刺さった剣を抜き、その傷口にサンダーを叩き込む。
さっきよりもするどい声を上げて、ジャイアントクラブがよろけた。シオンがジャイアントクラブから降りる。
「・・大丈夫ですか?」
人影のほうに歩く。そしてシオンは驚いた。
目の前にいるのは、どうしたってシオンより年下だ。
15歳ぐらいだろうか。さらに驚いたのは、パートナーが誰もいない。
ケージを運ぶモーグリですらいない。
傷だらけで、特に足が酷い。魔物からずっと必死で逃げていたのだろう。
しかも、ケージを脇に抱えたままで。
「ありがとう、助かったよ。」
その人影―――セルキーの少年は起き上がり、シオンに礼を言った。
少年が立ち上がると同時に、ジャイアントクラブもこちらに向かってくる。
「・・お礼を言うのは後にしましょう。今はあれを倒すのが先です。」
そういってシオンは、少年の手を引っ張り、ジャイアントクラブの攻撃を避けた。
「清らかなる生命の風よ、失いし力とならん!『ケアル』!」
走りながらシオンは少年にケアルをかける。引きずりがちだった少年の足が治った。
「おお・・すげぇ!早い!」
少年が感嘆した。セルキーに比べれば、クラヴァットのほうが魔法の詠唱が短い。
おそらく、回復する間もないまま攻撃されていたのだろう。
だとすれば足を怪我して、誰かを呼んでいたのもわかる。
「お礼はいいんですが・・名前は?」
「キルア!アザナ村のキャラバンだ!」
シオンが走りながら言うと、同じく少年―――キルア―――も答えた。
セルキーらしくない名前だが、どこからどう見たってセルキーだ。
そして村の名前を聞いて、シオンは首をかしげる。
「アザナ村・・?他のキャラバン達はどこへ?」
「あいつらなんか知らねぇよ!どうでもいい!」
キルアに聞くと、キルアはふんっと鼻を鳴らした。
キルアがいるというアザナ村には、すでに他のキャラバンがいることを、シオンは知っていた。
そのキャラバン達に会ったこともある。しかし引退するには若すぎる。
なら何故そのキャラバンでなく、こんな少年がここに来たのか・・謎は深まるばかりだった。
「まぁ今はいいでしょう・・。キルア、協力してください。
僕と同時に魔法が放てるようにしてくださいね。このサンダーを貸しますから。
敵は僕がひきつけますから、できるだけ詠唱に集中して・・。」
「・・あ・・・わかった・・・。」
シオンはキルアの手を離し、ジャイアントクラブに攻撃し、視線を自分に向ける。
サンダーをキルアに投げ、キルアはそれを受け取った。
慣れない詠唱にキルアが入る。
それを確認し、シオンはジャイアントクラブが放った泡を避ける。
あの泡に当たったら、スロウ状態になってしまう。
動きが遅くなるのはまだしも、詠唱まで遅くなってしまう。
こちらの動きをある程度追う泡を何とかやり過ごし、シオンも詠唱に入った。
ジャイアントクラブが来ることを気配だけで感じ、少し身の毛がよだつ。
しかし気にしていられない。
ふと見ると、ジャイアントクラブの足元に赤いターゲットリングが見えた。
キルアの詠唱が終わったのだ。もういつでも放てる。
それを確認し終えると同時に、シオンの足元に青いターゲットリングが現れる。
それをもう1つのリングに合わせて・・・。
「・・・・今です!」
「「『サンダラ』!!!!!!!」」
シオンの声のすぐ後に、大きな雷がジャイアントクラブを包んだ。
キルアが出てくるまで、滝つぼにいたのだ。
暴れていたといえど、やはり水をかぶっていたため、雷は大ダメージである。
ぱっくりとジャイアントクラブの殻が割れる。苦しそうな声が漏れていた。
キルアが嬉しそうに笑った。それを見て、にっこりとシオンも笑う。
シオンも初めてのマジックパイルだったが、何とか成功した。
かなりのダメージを与えることができた。しかし、まだ倒すまでには至ってないらしい。
よろけたジャイアントクラブが、目標をキルアに定めた。キルアが慌てて逃げる。
ジャイアントクラブがそれを追うが、スピードは遅い。あと1発。シオンは思った。
「キルア!」
「え?!」
シオンが呼ぶと、走りながらキルアが答えた。
ジャイアントクラブはシオンに目もくれず、キルアだけを追っている。
弱ったジャイアントクラブは、確実に倒せそうなキルアだけを狙うことにしたらしい。
「僕が魔法を飛ばしますから、できるだけ胴体を狙って、そのラケットで叩いてください!」
「えええ!?む、無理無理ッ!俺、ここまできたはいいけど、まだ敵を殴ったこともないのに!」
シオンが予想していたことは当たっていたらしい。
やっぱりこの少年は、敵から逃げ回って逃げ回って、ここまで来たのだ。
それならモンスターがたくさんいたのもうなずける。
しかし、キャラバンとしていくなら、モンスターを叩くことも覚えなければいけない。
「あんたがやってくれよ〜〜!」
ぜぇぜぇ言いながらキルアが言った。シオンはため息をつく。
「叩くことも覚えなきゃこれからやっていけませんよ!詠唱しますから、用意してくださいね!」
「ええっ、ちょっ、まっ・・!」
言い合っていては何も変わらないので、シオンは詠唱に入った。
キルアは慌てて、ただ走り回るばかり。でもシオンはかまわない。
「・・・行きましたよ!」
「えっ早・・・うぅ、やってやるよぉ!」
ターゲットリングを飛ばすと、後にも引けず、キルアも何とか腹をくくったらしい。
ごくっと生唾を飲んで、キルアはジャイアントクラブに向き合った。
ピカッ、とキルアのラケットが光る。
「今!」
「『ファイア剣』ッッ!!!」
シオンが叫ぶと、キルアはやけくそとばかりに、
『オーラショット』をジャイアントクラブに叩き込んだ。
もちろんシオンの魔法がかかっているので、その攻撃には火が伴っていた。
声にならない声を上げ、ジャイアントクラブが泡を吹きながら崩れた。
「・・・よくできました。」
シオンが拍手しながら言った。
「情けないキャラバンもいたもんだクポ」というモグを小突いて。
「・・・いぃぃやったぁぁぁ!!!!!」
はぁはぁといってから、少しして、キルアが嬉しそうに飛び上がった。
この様子だと、産まれて初めて魔物を倒したに違いない。
シオンの助力があってのことだったが、トドメをさしたのはキルアに間違いなかった。
「ありがとな!あんたが助けてくれたおかげだよ!」
ぶんぶんとシオンの手を握って振る。キルアは心底嬉しそうだった。
キルアをよく見ると、髪はぴんぴんとアホ毛が目立ち、口には八重歯が見えている。
美しいというよりも、幼児のような愛らしさのほうが目立つ。
「さーっ、しずくだしずく!」
シオンから手を離し、嬉しそうにキルアは駆けていった。シオンもそれを追う。
「はぁ・・・これがミルラの木としずくか・・。」
しずくを受け取った後、キルアはうっとりとしたように木としずくを交互に見た。
キルアのケージには、3分の1ほど、美しいしずくがたまっていた。
シオンもしずくを受け取る。今年初めてのしずくだった。
ボスとの激戦の後、神々しいまでのミルラの木を見ると、何だかほっとする。
「本当にありがとな!」
「いいえ。どういたしまして。」
キルアが笑顔で言うと、シオンも笑顔で返した。
「よかったらご飯、食べますか?ご馳走しますよ。」
「食べるーーッッvv」
八重歯をちらつかせて、満面の笑顔でキルアが言った。
本当に子供のようだ・・・シオンは思った。
「・・ところでさぁ、名前は?」
「僕ですか?」
シオンはほしがたにんじんをかじりながら、キルアは魚をかじりながら言った。
「そうそう。俺は名前聞いてなかったから。」
キルアは、はもはもという形容詞がぴったりの食べ方である。
それになんとも、おいしそうに食べるのだ。
逃げ回り、戦って、腹ペコなのだろう。
「・・僕はシオンです。ティパの村のキャラバンです。」
「ティパの村・・あぁ!聞いたことある!キャラバンの奴が言ってたな。」
「やっぱり、他にきちんとしたキャラバンがいるんですね?」
「うッ・・。」
しまった、という顔をキルアがした。
「君の仲間はキャラバンを引退したんですか?」
「・・違う。」
「ならどうして、君がここにたった1人でいるんですか?」
シオンが問い詰めると、キルアは魚を口から放し、むっつりとうつむいた。
「・・・・悔しかったんだよ。」
「・・何がですか?」
キルアがぼそりとつぶやく。
「俺以外の仲間は旅に出かけられたのに・・なんでか、俺だけキャラバンに選ばれなかったんだ。
俺だけ毎年置いてけぼりで、外の世界のこと、知りたいのに知れなくて・・。」
その声には、恨みとうらやましさがこめられていた。
外に出かけられることのできた友人、選んでくれなかった村長に対する恨み・・・・。
キャラバンになることへの憧れを、抑えきれなかったのだろう。
「何でって村長を問い詰めたら『キャラバンとしての訓練をしてないから』だってさ・・・。
訓練なんてしてなくても、他に仲間がいるなら、その中で訓練もできるのに、
村長はさせてくれなかったんだ!」
だからあんなに戦いができないのか。シオンは納得した。
「だからこっそり、村を出たんだ。
俺だっていざとなれば、すぐにしずくを集められるって思ったんだ。
今まで俺の力を馬鹿にしてたに違いないんだよ。
だから・・・・・・・・見返してやりたかったんだ・・・・・。」
キルアの目に涙がにじんだ。
たった1人置いていかれたのは、どんなにか辛かっただろう。
シオンには今のキルアの行動を、否定も肯定もできなかった。
否定すべきでもあり、肯定すべき内容だった。
「それで出てきたはいいけど・・。やっぱり魔物には慣れてなくて・・。
逃げることしかできなかった。情けなかったけど、それしかできなかった。
だからさ・・あの時、あんたが助けてくれたときは、すごく嬉しかったし、
スゲェかっこいいな、と思ったよ・・。俺なんかと違ってさ。」
自分だってがむしゃらに戦っているだけなのに、シオンは思った。
「あんたは俺と同じでたった1人だったのに、何もかもすぐに判断して、
逃げたりしないで、戦ってただろ?それを見た時、
やっぱりこういう人じゃないとできないのかって思った。
俺みたいな、逃げるばかりの奴には、キャラバンはやっぱりできないのかって思った・・。」
弱気な発言だった。これが本当のキャラバンだったら説教したいぐらい弱い。
この弱さでは、確かにキャラバンは続けられない。
村長の意見は正しかったのでは、とシオンは思った。
「でも・・でもな。あの蟹をラケットで叩くことができた・・。
怖いと思ったものに、攻撃することができた。
あんたの助け無しじゃできなかったことだけど、俺は丸っきりの弱虫じゃない・・。」
キルアはぎゅっと両こぶしを握った。
「・・俺はだから、できると思う。訓練はするようだけど、
キャラバンになれると思うんだ。・・それとも、帰ったほうがいいのか・・?」
最後はシオンを見て言った。シオンは少し考えた。
「・・・やる気があるならやったほうがいいですよ。ここで帰ったら、負けでしょう?」
しばらくして言った。続けられるかどうかは不安だが、やる気さえあればできるはず。
シオンは思った。
「そう・・そうだよな!よし!やるぜ!」
シオンの言葉を聞くとやる気があふれてきたのか、立ち上がってキルアは言った。
シオンは微笑む。しかし、
せめてケージを運ぶモーグリだけでも連れて行ったほうがいい、と言おうとすると・・。
「なぁなぁ、俺も一緒に連れて行ってくれ!」
「・・は?!」
「意外な展開クポっ。」
意外なキルアの言葉に、シオンは思わずそう声を漏らした。
「だって俺、悔しいけど、やっぱりまだへっぽこだしさ・・。
できるって言ったすぐ後に言うのもなんだけど、
あんたと訓練もしたいし・・・・ダメか?」
キルアが哀願した。シオンはため息をついた。
「・・・いいですよ。」
「ホントか!?やったぁぁ!!!」
元々何か頼まれたら、断ることのできないシオンだ。
そういうと、キルアは飛び上がって喜んだ。
「・・いいクポ?シオン?」
「・・いいですよ。旅は人が多いほうがいいですし。」
モグがシオンに確認する。モグは賛成ではないらしい。
でも、シオンはにっこりと微笑んだ。
「よろしくな!シオン兄!」
「いや・・その呼び方は・・。」
「よーし!絶対に見返してやるぜー!」
「ちょっ・・。」
“あんた”ということをやめたキルアの、シオンの呼び方にシオンは少しテンションが下がったが、
キルアが聞いていないので、ほっておくことにした。
弟や妹からいつも“お兄ちゃん”といわれているが、やっぱりそういう風に呼ばれるのは、
何故だか、少しくすぐったくて照れくさい。
「もう・・・まぁいいです。行きますよ、キルア!」
「わっ、待ってくれよ兄!」
始末をして、シオンは出口に向かうと、キルアもついていった。
モグが呆れながらもその後に続く。
そして1年後、無事にキルアも、シオンもその年分のしずくを手に入れた。
少し時間はかかったが、キルアも1年で見違えるほど戦闘がうまくなり、
ブリザド系の魔法が何故か一番得意になっていた。
4年目、シオンはあろうことか、出発の前に酷い風邪を引いてしまい、
キャラバンはラ・イルスとティエルがやったので、その年のキルアの様子はわからなかったのだが・・・。
次の年。5年目。
シオンが街道を1人で歩いていると。
「兄ーー!!シオン兄ーーーー!!」
振り向くと、他の仲間に囲まれて、キルアが手を振っていた。
それに対し、「よかったですね」と小さくシオンはつぶやき、同じく手を振った。
仲間に囲まれ、キャラバンとして認められたキルアは嬉しそうだった。
その様子に思わずシオンも顔がほころぶ。
これは余談だが、キルアはせっかく仲間と一緒のキャラバンに入れたのに、
『1人のほうがいい』という理由で、この後もたった1人でしずくを集めることが多々あった。
その目的は、何よりも気楽に旅ができるということのほかに、
尊敬する人と一緒に戦うことができる、という理由があるからだとか。
現に、キルアは、この後も時々、シオンと2人で組んだ。
シオンもキルアをよきパートナーとしていた。
2人の仲のよさはお互いの村にも知れていて、
アザナ村のキャラバンによると、キルアはマジックパイルが下手なのだが、
シオンとならばっちり合うそうだ。
「なぁなぁ、兄。俺達ってさ、いい“相棒”になれたと思うか?」
数年後、久しぶりに2人で街道を歩いていると、控えめにキルアがシオンに聞いてきた。
シオンはにっこりと笑う。
「そうですね。キルアは僕の最高の相棒ですよ。」
「・・・俺もシオン兄は最高だと思うぜ!」
シオンが心からそういうと、キルアが満面の笑みで、そう返した。
最高の“相棒”を得た2人の笑顔が、まぶしい太陽に負けないくらい、輝いていた。
* * * * * * * * * * * * * * ミニあとがき * * * * * * * * * * * * * *
思いついて、1日で書き上げてしまったものです・・。
セルキーのべあふぃすと・キルアと、
クラヴァットのむぞうさ・シオンとの友情(?)物語はどうだったでしょうか。
知っている方もいるとは思いますが、
キルアは、弟がプレイするときに使っているキャラなんです。(もちろんシングル・・)
マルチができるようになったとき、シオンはいつもキルアと組んでました。
唯一2人以上での旅です(笑)
これすぐにアップしなくてよかったです。
いやね、最初はキルア、シオンを『シオンにぃ』って呼んでましたから。・・いくらなんでもね・・・。
だから『シオン兄』に変更。読み方は『あに』じゃなくて『にい』ですが。
マルチって面白いですね!
シングルもいいですけど、マルチの『マジックパイル』がもう・・。
最初はなかなか合わなかったんですが、やっていくうちに、
何も声を掛け合わなくてもできるようになるんですよね〜。
敵も2倍以上のスピードで倒せるし、評価点もより高くできますし。
ついでに、マルチで初めてセルキーの『まもる』を見て、
「うわ〜〜ちょーかっけぇぇぇ〜〜〜!!」とか思いました。
(だってバク宙で身を守るのよ!?クラヴァットは地味に盾だからね(汗))
そのおかげでべあふぃすとが好きになったといっても過言ではない
(他のセルキーも同じなんですけど)
・・唯一の疑問はモグはどこに行ったのか(笑)
もしかして・・・クビ?
べあふぃすと&むぞうさのコンビは、
ネット上でもたくさん同志がいて嬉しいですv
それではここで。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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