SSS(クリックするとジャンプします)
リンドブルム襲撃(時:リンドブルム襲撃時 ダガー独白)/偲ぶ心の先(時:ED後 ジタン+ルビィ)/
一時の旅立ち(時:DFF出発前妄想 ダガー独白)/召喚石アレクサンダー(時:DFF本編中 ジタン独白)/
金色(時:ダリ到着前 ジタン+ビビ+ガーネット+スタイナー)

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リンドブルム襲撃

召喚獣――アトモス――が今まさにリンドブルムを飲み込んでゆく。
ここからではとても小さい姿しか見えないけれど、建物の破片も、人も、すべてが吸い込まれてゆく。
高い城壁では見えづらいけれど、時々瞬くような閃光。
きっととんがり帽子のあの人達の魔法。
あの場所からは遠いここから見えるだけ、想像するだけの景色であっても、思わず目をそらしそうになった。
あぁ、たくさんの人が、ひとが、ひとが・・。
飲み込まれて、焼かれて、そしてしんでゆく。
「…っ!」

どうしてどうしてどうして。
ねぇ、お母様、どうして?

どんな思いよりも先に、心に浮かんだのはそれだった。
あの人がやったんだ。
あの光景を見て、真っ先にその考えが浮かんだ。

止めたかったのに。
止めたくて城に戻ったのに。
結局私はあの人の心にこの言葉すら残せず、
あの人に新たな罪を負わせた。

「なん…で…」
後ろでちいさな、しかしとても震えていることがわかる声がした。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
あなたまでこんなに怯えさせてしまって。
でも今、声すらかけられない私。何て情けないの。
けれどうごけない。
お母様の事実があまりにも悲しくて、その悲しみに私は頭まで浸かってしまっている。
本来なら、私が抱きしめてあげなければいけないのに。

「ビビ」

そんな私の代わりにか、彼が、ちいさなあの子の名前を呼んだ。
そう呼んでくれるのを待っていたように、ビビは彼にすがるように抱きついた。
今彼の左腕は私が握っている。だから、彼はそっと怯える彼の背にそっと右の腕を回した。
彼は私とビビのふたりを撫でて、優しく包み込んで。
こんな時にしちゃいけないのかもしれないけれど、それに私は安堵した。
「行こう」
彼のはっきりとした言い方に、私とビビはうなずいた。
でも、どうして。
私は同時に、脳の片隅でやっと思う。

今一番泣きたいのはあなたのはずなのに。
どうしてあなたはそんなに優しくて、強いのだろう。

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ブラネを止められなかったダガーの落胆も相当だったでしょうが、
私的に「いつか帰るところ」を攻撃されたジタンの心境が気になっていたのです。
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偲ぶ心の先

「うぅえ…さみぃ…」
空気ですらきんと冷える早朝、リンドブルムの一角、
劇場街にある劇団タンタラスのアジトで、窓を開けたジタンが開口一番そう言った。
「あんた、年の割に細っこいからなぁ、しょーがないねんて。確かに例年よか寒いし。
 他の奴らはこの中でも元気に買い物に行ったけどな」
「…遠まわしにオレを馬鹿にしてないか、ルビィ?」
ルビィの言葉はなだめるような感じではあったものの、
ジタンには馬鹿にされたようにしか感じない。
しかしそれ以上取り合ってもらえそうにならないし、
ジタン自身もそれ以上反抗することはしなかった。
「…懐かしいなぁ」
「ん?」
しばしの沈黙があった後、ルビィがぽそりともらした。
「あんたがここに来て初めての冬も、随分と寒かったから」
「そーだっけ?全然覚えてないんだけど」
「そらあんた小さかったからしゃーないわ」
どこか寂しげな微笑みで、ルビィが偲ぶものの、
ジタンにはそれに同意できるほどの記憶は残っていなかった。
「というかあんたは風邪引いてばっかりやったんよ。
 熱ばっかり出してたから、外で寒さを感じる暇もなかったんやろな」
いや本当にあの時は手がかかったで、と腕を組み一人頷くルビィに、
そりゃどうも、とジタンが言う。
「あの時は何でこんなに弱いんやろう、この先も大丈夫かいなって思ったもんやけど…
 今にしても思えば、あれは仕方のないことやったんやな」
そういってルビィが困ったように微笑んだ。ジタンも苦笑を返した。
幼少時のジタンは病気に対する抵抗力は謎だったのだと言う。
外に行けばすぐに風邪を引くのに、治りは早い。
でもそれは当然だったのだ、ジタンはあの外部から何もかも遮断された、あの星にいたのだから。
「…じゃあオレは感謝するべきだよな」
「うん?」
どこか感傷に浸っていたルビィは、ジタンの言葉で顔を向ける。
「オレが寒さを感じられるようになったのは、
 小さい頃風邪を引いてもルビィがちゃんとオレの看病してくれたからなんだよなって。
 薬だってただじゃないし、ほっておくことだってできたのに」
そうだろ?と言ってジタンが笑う。
それはルビィが長年好きだった笑顔だった。
いつかジタンがあのアレクサンドリアへ行ってしまうのかと思うと、
この思いは、子の巣立ちを見る親の気持ちなのか、それとも違うものなのかは、今のルビィにはわからなかった。

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ルビィはジタンが好きだった派です。
かすかな恋心と家族愛が混ざってわからなくなってしまっているのが希望。
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一時の旅立ち

彼が私たちから離れる時。
彼は笑顔で、私は沈んだ顔をしていた。
「ちょっと行ってくる」
支度をして、みんなから餞別の品をもらって、服をよそいきにする。
彼は微笑んで、頭を撫で、こつんと拳と拳をぶつけ、しばしの別れのあいさつをする。
『気をつけてね』
『怪我しないでね』
『ちゃんと帰ってきてね』
ありきたりでも、伝えたなきゃいけない言葉がたくさんあるのに。私は言葉を紡げない。
その場にいるみんなにひとつひとつ何かをして、何かを呟いて。彼が私を見た。と同時に、困ったような笑顔。
ごめんなさい、ごめんなさい。
私がこんな顔をしているから、困らせてしまっているんだね。私も本当は笑顔で送り出したい。
だけど、この気持ちだけは、どうしようもなくて。
私に近づいた彼が、私の頭をなでる。
そのあと、いつもの笑顔で「お土産たくさん持って帰ってくるから、な?」と言った。
旅立つくせにいつも通りで、いろんな言葉が込み上げてきたけど、やっぱり混ざってぐちゃぐちゃになってしまって。大きく頷くだけにした。
とりあえず安心はさせられたらしく、彼は「ん、いい子だ」と言って、もう一度私の頭をなでた。
それじゃあ、と彼は歩きだす。皆が手を振る。私も小さく手を振る。
こちらを向いていた視線を前に向けた後、みんなの呼び掛けに答え、彼は一度だけ拳を空に突き上げた。
彼が見えなくなると、みんなも散り散りになる。
私を心配してくれる人もいたけど、さすがにこれ以上皆には心配をかけられない。
だから、自分のあるべきところに帰って、力が抜けてベッドに倒れこむようにして、一人になってから。
少しだけ涙を流した。
永遠の別れじゃない。それはわかっている。
だけれども、どうしようもなくさびしいのだ。
たとえわがままだと、自分のエゴだとわかっていても、さびしいと思う心をごまかせなかった。
「行かないで」
と言いたかった。
でもわがままに身を任せることすらできない私は、せめて今ここでつぶやく。

「早く帰ってきて…、ジタン」

しずく程の涙とともに言葉は枕に吸い込まれ、私も眠りに落ちた。
夢の中では、どうか彼に会えますように。

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ジタンに依存気味のダガーさん。ジタンも内心では彼女も連れて行きたいと思っているのでしょうけど。
DFF設定の妄想は本編にはないものがあって新鮮です。
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召喚石アレクサンダー

「…」
ジタンは、自分の手にある、赤く丸い石を見つめた。
宝石のように美しいその石には、召喚獣「アレクサンダー」が秘められている。
クリスタル探求の旅の中、怪しく思いながらも触れたそれは、光となりすんなりとジタンの中に溶けた。
まるで、自分が手に入れることが当然だとでも言うように。
「アレクサンダー」
小さく、ジタンは呟いてみる。
自分の中に溶ける前、頭に響いた言葉と名前。
なぜだろう、知らないはずなのに、その名を聞く度、呟く度に懐かしくなる。
そして、何かがジタンに訴えかけるのだ。
誰かの祈りの声のような気がした。
だけれども、誰の声か分からない。
大切な人のような気がした。でもそれすらもおぼろげなのだ。
目の前にいる敵を倒す力を高めると、翼を広げて守ってくれる。
その力を失うことがないように。
この召喚獣は、破壊の力を守っていることに気が付いているのだろうか。
…まぁ、たとえそれがわかっていてもいなくても、
天使を連想させる美しい翼には似合わないな、とジタンはぼんやり考える。
何か他に守るものはないの?
問いかけても、答えは返らない。
美しい翼は、今日も迷いなく、彼の力を守る。
それを疑問に思う彼ですら、大切なものを忘れさせられていることに気づかぬまま…

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ジタンのステージでとれる召喚獣にアレクサンダーを選んだことは高評価だと思います。
FF9の中で象徴的なだけで、ジタン自身にアレクサンダーは関係ないと言えばそれまでですが(笑)
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金色

「どうした、ビビ?食欲がないのか?」
野宿をした次の早い朝。テントと焚火のそばで、軽い朝食を取る風景。
ぼーっとしているのか、動きのないビビを見て、硬いパンに豪快にかぶりつきながらジタンが問う。
「あっ・・ううん、なんでもないよ」
「そんなにぼーっとしてて何でもない訳ないだろ、どうした?」
はっとしたビビが慌てる。
慌て過ぎたせいか手に持っている蜂蜜を塗ったトーストが落ちそうになった。
眉間に少しだけしわを寄せ、ずいっと自分をのぞきこんできたジタンに、ビビはもじもじとする。
「ビビ、辛いなら言っていいのよ」
「うむ、辛い時に無理をしては体を壊しますぞ」
「ちがうちがう、からだはおかしくないの」
ダガーとスタイナーもビビを見た。
本気でビビの体調が心配になってきた三人に、ビビはわたわたと弁解する。
じゃあどうしたのと追撃のように質問されて、居心地悪そうに体を揺らす。
「その…はちみつの色って、ジタンの髪の毛と一緒だなぁって考えてて」
「えっ?」
思いがけず話題に出てしまったジタンがきょとんとする。
今日の朝食は街で調達した、少々硬くなったパンに、はちみつを塗っただけの簡単なもの。
小さな瓶に入るはちみつ色の色は、朝日に照らされ、確かにジタンの髪と同じ色に見えた。
ふむ、とダガーとスタイナーの視線もジタンに移る。
「私は、太陽のひかりの色に見えるわ」
「こやつに太陽の光などと!・・まぁ、小麦色ぐらいには見えますな」
ダガーとスタイナーはビビと違う意見になっている。
そぉ?と同意を得られなかったビビは、少し残念そうだ。
「髪の色が何に見えるか・・考えたことないなぁ」
すっかり話題の中心になってしまったジタンは、うなりつつ髪をいじった。
「ジタンの髪の毛、綺麗だよね」
にっこりとビビが笑う。そこには微塵もからかいなどの悪意は見えない。
「艶とかならダガーの方がいいと思うけどな、実際綺麗だし」
「あら、艶がなくてもジタンの髪の毛は綺麗よ?」
実際、朝日に揺れる細い金色を、美しいと思ったし、とダガーも加わる。
照れくささが混じって、ダガーの髪を褒めたジタンだったが、結果的に褒められてしまった。
いつもはジタンを邪険にするスタイナーも頷いていて、髪の色だけは素直に綺麗だとは思っているようだ。
(もしかしたらダガーに合わせただけかもしれないが)
本気でジタンが照れくさそうにしている。
「お母様も金色だけど…ジタンの髪は、お母様とは何か違うのよね」
「カバオくんも金色だけど、確かにジタンとは違うとボクも思う…。…おじちゃんは?」
「いえ、そもそも人間で金色は珍しいと自分は…」
疑問から段々と広がる無邪気な会話の中で、ジタンの表情がわずかに固まったことに、誰も気がつかない。
「はちみつ…太陽…小麦…」
うわごとのように呟くと、自分を置いて話をする3人を尻目に、パンをかじった。

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ジタンは珍しい容姿のせいでいじめられていたイメージがあります。
最初はブラネが金髪だったことを忘れていて、修正しました;;
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