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(時:リンドブルム襲撃後 ジタン+ダガー)/
幸せ(時:ED後パラレル設定 ジタン→ダガー)

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「道具はこれでいいの?」
「うん。できるならありったけ持っていきたいところだけど…そうなると動きが鈍くなるからな」
道具屋から瓦礫や修復の為の木材などがそこいらに転がる町中へと出る。
その間に、ダガーとジタンはお互いの荷物を確認した。
これから未知の大陸へと向かうのだ。準備は万全にしておきたい。
「そろそろ合成のものができてると思うし、ダガーはここで待っててくれよ。取ってくるから」
「え、私も行くわ」
「だーめ。合成したものは武器ばっかだしかなり重いぞ。オレの武器が最たるものだ。
 ダガーは道具をそんだけいっぱい持ってくれてるんだから、十分だよ」
合成屋までの道を歩くなかで、ダガーを先導するように歩いてたジタンが、制止するように彼女の歩く道をふさぐ。
とにかく役に立ちたいダガーの抗議もむなしく、ジタンはさっさと一人で入ってしまった。
確かにダガーも道具を両手いっぱいに持ってはいたが、ジタンはそれ以上に持ってるのに、とぶちぶち恨み言のように呟く。
しかし、置いてかれた以上はどうしようもないので、とりあえず店の前でジタンを待つことにする。
「どいたどいた!そこにいると邪魔だ!」
「あっ、ご、ごめんなさい」
結果、慌ただしく木材を持って走る住民の通行の邪魔となってしまい、跳ね飛ばされるようにダガーは店の壁際に寄る。
手に持っている荷物が一瞬ぐらりと揺れたが、何とか落とさずに済み、ダガーは安堵のため息をついた。
「…ふぅ」
あらためて、リンドブルムの街を見る。
焼け焦げた跡、無理矢理引きはがされたような瓦、くすぶる煙…。
無残としか言えない戦争の傷跡の中で、住民が慌ただしく動いていることだけが救いだ。
そして、それをやったのが誰かなのか考えて、思わずダガーはその場にうずくまりそうになる。
きつくきつく閉じた瞳に、昨夜の光景が焼き付いて離れない。
侵攻するレッドローズ、閃光が瞬く城内、容赦のない召喚獣の吸引。
思い出すたびに、胸が悲しみとともに締めつけられる。

お母さま。
本当に、お母さまはこんな光景を望んだのですか。
この光景を見て、お母さまは何とも思わないのですか。

心の中で問いかけても、答えなど返ってこない。
母の犯した罪の裏には、クジャという人物が裏で糸を引いていると言う。
しかし、裏にどんな人間が見えたとしても、それで母の罪が消える訳ではない。
ブルメシア、クレイラ、リンドブルムは崩壊した。
いくらクジャが母親をそそのかしたのだとしても、侵攻したのはアレクサンドリア国家なのだから。
(わたしは、アレクサンドリア王女として、何をしたら…)
“償い”と言う言葉すらおこがましくも思える、この惨憺たる光景。
自分がすべきことを考えて、でも何をしたらいいのか、答えがすぐ浮かぶ訳でもなく、ダガーは途方に暮れていた。
「もし…そこのお嬢さん」
「あ…わ、わたしでしょうか?」
「そう、貴方でございます」
そんなダガーの後ろから、声がかけられる。けれども、ダガーはその声の主をすぐに見つけられなかった。
その人物は、瓦礫の集まりだとしか思ってなかったところにいたのだ。
顔はよく見えない。すすけた布をかぶっていることがわかるだけだった。
その布の隙間から、臭気とともに汚れた腕が伸び、ダガーに手招きするようにしている。
それはあまりにもみすぼらしい姿で、思わず自分が身を引きかけたことに気付いたダガーは、必死に体を戻す。
今自分が確かに「この人に近づきたくない」と思ったことを強く、強く責めながら。
「わたしに何か?」
動揺を悟られないように、つとめて優しくダガーは話しかける。
「お嬢さんは、なにか食べるものをお持ちではないですか?
 このたびの戦争で、わたしは怪我をしてしまって…食べるものに困っているのです」
「あ…ちょ、ちょっと待ってください」
弱々しい声を聞き終わる前に、猛然と道具袋の中をあさり始める。
旅の準備には、食物も含まれている。携帯用が多いゆえに決して美味ではないが、お腹の足しにはなるはず。
いろいろな罪の意識に追い立てられるようにしながら、ダガーはやっと乾パンを引きずりだした。
「これで良ければ…」
「おお、ありがとうございます…」
そしてダガーは、迷いなくそれを差し出した。
少ない準備資金の中で、ジタンと相談しながら選んだものだが、少しなら許してくれるはず。
アレクサンドリアの罪、そして今自分が犯した罪。
それを償えるなら、というダガーの必死の行為。ただそれだけだった。
「ダガー!!何やってるんだ!!!!」
しかし、後ろからよく知った声色の怒声が響く。
その声に振り向く前に乱暴に腕を掴まれ、乾パンが落ちてしまう。
それをあの人が受け取れたのか、ダガーにはわからない。
その人とは逆方向に無理矢理引っ張られ、手荷物が落ちないようにしながら、転ばないようにするので精いっぱいだった。
「何やってるんだ、もう!!」
あまり人気のない細い道に入って、ようやくジタンはダガーを解放した。
掴まれた腕がじんじんと痛む。
「何って…あの人がお腹が空いた、でも怪我して動けないって言うから乾パンをあげようと…」
「そんなことしちゃだめだ!」
「どうして?あの人は困っているのよ。助けてあげるのが道理じゃない!」
ジタンが呆れつつも、それ以上に怒っているのはわかった。
しかし、自分の償いを邪魔された揚句に否定され、ダガーは彼の怒りの理由を聞くこともしなかった。彼女も怒っていたのだ。
だが、その言葉を受けたジタンが、その瞳を凍らせるようにして自分をまっすぐに見ていることに気が付き、その勢いも失われて行ってしまう。
「いいかい?確かに君がしようとした行為は、一見すると美しい。
 君があげた乾パンのおかげで、今あいつはお腹が膨れたことだろうさ。
 だけど、時間が経てばまたあいつはお腹が空く。そしたらどうするんだ?」
「それは…またあげれば…」
「そのとき、君は確実にあいつのそばにいられるのか?」
「それは…」
「オレ達の資金だって無尽蔵じゃないんだぜ。オレ達だって食べないといけない。
 オレ、ダガー、ビビ。三人分の飯を用意することが、どれだけ大変かわかるか?」
言い聞かせるような言葉の一つ一つに棘があった。
ジタンの言い分も、聞けばわかってきた。けれども、ダガーはそれで納得することはできない。
ダガーに懇願する弱々しい声に、みすぼらしい姿。
近づきたくないと思ってしまった。自分の母が引き起こしたことだと言うのに。
いろいろな罪の意識にさいなまれ、ダガーの心は悲鳴を上げる。
耐えきれなくなったダガーは、勢いを取り戻し強くジタンに問いかける。
「そんなのわかっているわ!でも、あんな風になっている人、かわいそうで見てられないじゃない!
 ジタンは、そんな人をほっておけるって言うの?」
「ああ」
しかし、返された言葉は恐ろしく冷たく、そして短かった。ダガーは硬直する。
ジタンはこんなこと言う人じゃない。こんな人でなしじゃない。そんな思いが頭をよぎった。
「…君は何もわかっちゃいない」
はぁ、という大きなため息をつかれる。
馬鹿にされているように感じたが、それに反論することもできないほど、ダガーは今のジタンに戸惑っていた。
「ダガー。誰かに飯を与えるって言うことは、そいつに対する責任が生じるってこと。その場しのぎじゃ駄目なんだ。
 一食分満たされただけで、そいつの状況の何が変わる?生きていれば腹は減るんだ。
 …そのとき、君にその腹を満たしてあげ続けることはできるのかい?
 人一人養うってのは、想像以上に大変なことだぞ。
 それだけじゃない。その一食分が三食、五食、十食…と続いてくと、人間はだんだん傲慢になる。
 最初こそ感謝していたって、その内もらって当たり前ってなる。
 それでお金がなくなってみたりしてみろ。
 ダガーがどんなにお腹を空かせていて、それでも自分の身を削って食事を与え続けていても、
 そいつはそんな事情汲み取りやしない。
 もし飯が途切れれば、飯はまだかって暴れるだろう。
 自分が働けないことを盾にとって、君に何が何でも稼いで飯を持って来いと言うだろう。
 下手したら身体を売り払えと言われるかもしれない。それを拒んだとしても…」
ダガーはジタンの言うことを静かに聞いていたが故に、次の瞬間何が起こったのかわからなかった。
ダガーの手首は痛いほどきつく握りしめられ、その体は荷物ごと壁に押し付けられていた。
ぴったりと壁に二人の身体が張り付くが、そこに色気も何もない。
驚きよりも何よりも、まず恐怖を感じてダガーはジタンの腕から逃れようともがいたが、虚しい抵抗だった。
「…こうされたら抜けられないだろ?男が本気になれば、女なんか簡単に押さえつけられるもんだ。
 本人にその力がなくても、その手の奴呼べば一発だ。ダガーは、それはそれは高く売れるだろうからな。逃がさないだろう」
皮肉交じりの最後の言葉はまるで吐き捨てるようで、嫌悪感が溢れている。
ダガーもその存在は知っている。だが、いまいち実感はわかない上に、論理が飛躍しすぎていると思った。
第一、物乞いの話からダガーの身の危険に問題がすり変わっているではないか。
「でも、そしたらあの人はどうなるの?そんな風に見捨てられて、死んじゃうかもしれないのに」
だから、そう聞かずにはいられなかった。自分のしたことが間違いだと思いたくない気持ちもあった。
だが、ジタンの目がすっと細まったのを見て、ダガーは一瞬後悔すらしてしまう。
「ガーネット・ティル・アレクサンドロス17世」
時間が経って落ち着き始めていたジタンの声と瞳に、また冷たさが戻る。
重く低く、自分を呼ぶ声は、ダガーにまたジタンへの恐怖を呼び起こさせた。
「君や女王様。そして、シドのようなおっさん。そういう『為政者』が、何の為にいると思っている」
だが、その恐怖も一瞬で霧散する。
というよりも、ダガーははっとしたのだ。
「上に立つ者が弱者を救う。あの人以外にもああいう人はいるだろう。それはシドのおっさんが何とかするだろうさ。
 …だから、“ダガー”は、あんなことするべきじゃ、ないんだよ」
『国民は税を納めます。その税をもって、ブラネ様は、国民の衣食住を守っているのです』
トットに教わったそんな一文を思い出す。
こんな当然のことすら思い出せなかったことに、ダガーは狼狽していた。
「君がああしようとしたこと、その理由はオレも理解できる。オレだって見ていられなくなるさ。
 でも、その時沸いた同情心とか憐れみだけで、そんなことしちゃいけない。
 そんなのは、ただの自己満足に過ぎないんだから」
「自己…満足…」
ジタンの言葉が刺さるようだった。
痛いところを突かれたのもあって、ダガーはもう言い返す気すら起きない。
…しかし、ダガーは考えた。
それが王族の役目なら、それを崩した母はどうなるのだろう。
そして、償いも何もなく、ただここにいる“ダガー”というだけの人間は。
「…怒ったせいで君を怖がらせたことは謝る。でも、君が心配なんだ。
 君に何かあったりしたら、オレは平静でいられる自信はない。それに…」
握りしめられていた手も、押し付けられていた体も、その圧力は抜ける。
ジタンが慰めてくれているのはわかったが、それさえもダガーは今自分がみじめに感じた。
しかし、最後の言葉とともにジタンが自分の肩に頭を置いたのを感じて驚く。
「頼むよ、これ以上、リンドブルムの民を、地に堕とさないでくれ…」
言い聞かせる言葉でも、ましてや叱責でも何でもない、ジタンの懇願。
一瞬声が泣いているようにも聞こえたが、その後すぐに上げたジタンの顔は、そんな様子を微塵も感じさせなかった。
「…さぁ、もう行こう。ビビが待ってる」
打って変わって顔色を明るくして、ジタンが降ろしていた自分の荷物を持つ。
ダガーはいろいろ起こったせいでしばらく思考停止していたが、ジタンが歩き始めたのを見て、慌ててそれについていく。
「…しかしなぁ」
隣より一歩下がったところで――今、彼の隣に並べる勇気はなかった――ジタンの声を聞く。
「格差の大きいトレノならともかく、リンドブルムでこういうことを言わなきゃいけないなんて…」
背中には哀愁が漂っているように思えた。ダガーを責めていたあの怒りも、今は影も形もない。

「戦争は、悲しいよ」

そんなジタンの呟きが酷く寂しげで、ダガーの耳に残る。
言葉通りのもの以上の感情が、そこに集約されている気がして。
ダガーは、その言葉を忘れることはできそうになかった。

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リンドブルム襲撃後、やるせない二人。ダガーを大事にするからこそジタンは容赦ないと思います。
こういうこともあったんじゃないかな、というのをすっと形に出来て、コンセプトが気に入っているものです。
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幸せ

※ガーネットはジタンに恋をしておらず、間接的にジタンが振られるお話です。ご注意ください。


「婚約者と、結婚することになったの」
「そうなのか。おめでとう」

幸せいっぱいの人間と、祝福する人間。ごくありふれた、友情からの言葉。
しかし、それは表面上のものでしかない。
ジタンの表情が一瞬固まったことに、ガーネットは気付いていないだろう。

気づかなくていい。
ガーネットの幸せを何より願うなら、オレの恋心なんか、邪魔なものでしかないんだ。

ジタンは、誰もが見とれる笑顔で仮面を被った。


あの旅の中で、二人の距離はぐっと近づいたと思っていた。
“二度と帰ってこない、何よりも大切な記憶”と言ってくれたガーネットの言葉に甘えていたと言ってもいい。
ジタンは恋心を隠そうとはしていなかった。けれど、伝えたこともなかった。
自分が一番ガーネットの近くにいると自負していたからだ。
ガーネットから確かな好意を感じたと、思っていた。
生還したことを泣いて喜び、自分だけを見つめてくれたからと。


でも振り返れば、ただそれだけ、だったのだ。



「婚約者がいる」

と話された瞬間、呼吸が止まりそうになった。
考えれば、アレクサンドリア王国の大事な大事なたった一人の跡継ぎである。
ガーネットが子を生さねばアレクサンドリアの血は途絶えてしまう。
婚約者がいてもおかしくない。
けれど、何よりジタンの喉を絞めたのは、ガーネットがその婚約者と愛し合っていると知ったからである。
紹介された人の好い婚約者と、その隣で微笑むガーネット。
似合いの二人に出来ることは、隠さずにいた恋心を隠すようにすることだけだった。




女性ばかりだから、というのかどうかはともかく、警備が厳しいアレクサンドリア城の門を顔を見せるだけで通れるのは、
この世の中すべてを探してもジタンしかいないだろう。
「ジタン!」
その待遇と、門まで迎えに来てくれる女王を“保護者として”見ることは、いいのか悪いのか。
「あんまり呼ばれても、オレも忙しいからしょっちゅうは来れないんだけどねぇ」
それにしては緩む頬に、ガーネットは疑問を抱くこともなく、拗ねるように口を尖らせる。
「これから劇があるからこっちに滞在してるんでしょ?
大事な話だから、ジタンには一番に、どうしても聞いてもらいたかったの」
そして聞かされたのが最初の言葉だった。
ずっと愛していた女のことだ、大体のことは分かる。それでも演技をしてきてよかったと心から思う。


いつか、ガーネットの側近であるベアトリクスはジタンに話してくれた。

ガーネットにとって、ジタンは仲間である。けれど親のようであり、兄のような存在でもある。
ガーネットは実の親と義理の親、全てを失い、兄弟もいない。
頼れるベアトリクスやスタイナーも、先生と慕うトットも、
結局上司と部下、教師と生徒と言う関係性から抜け出すことはない。
唯一無二の姫だから、小さい頃から親しい友人などいなかった。
だからジタンという存在が嬉しかった。
自分が姫だからと、女だからと甘やかしたりはしなかった。
悪いことをすれば容赦ない叱責が飛び、意見が違えばガーネットと喧嘩さえした。
けれど、困ればいつでも優しく手を差し伸べてくれた。
できないことはできるようになるまで面倒を見てくれた。
見守ってくれる瞳が優しく、ジタンになら何でも言えた、と。
まとめればそんなところだった。

要するに、“すべてをさらけ出せる家族”だったのである。
ガーネットに一番近しい存在、という認識は間違ってもいない。だが、近すぎた。
親の愛に飢えたガーネットは、こらえきれない寂しさをジタンに甘えることで埋めるうち、
いつしか家族愛を恋愛感情に上書きしてしまっていたのである。


辛いなら離れてしまえばいい、恋愛出来るほどに女王の精神が安定したというなら、誰も責めはしない。
何よりもジタンを想うからこそ、親しい友人達は口々にそう言ってくれた。
それでも、ガーネットを心から愛したジタンにとって、
例え家族愛であっても、ガーネットに会う機会を失うことは考えられなかったのである。
一番聞きたくない話を聞き続けてでも捨てられないのなら、いつでもこうなる心構えは必要だったのだ。
叶わぬ恋に手も打てず、望んで好きで居続けたのは、ジタンなのだから。

「……でもね、ひどいのよ。式の準備で忙しくなるからって、わたしを放りっぱなし」
「今こそこうして話をしているけど、いつも机で仕事をこなしているんだから、たまにはねぎらいの言葉ぐらい欲しいわ」
時折悪態をつきながらも、恋する瞳で話すガーネットが、愛らしくて愛しくてしょうがない。
この調子では婚約者が伴侶となっても、ガーネットはジタンを一番に頼りにし続けるだろう。
唯一ジタンがガーネットとの関係性の中で誇れるこの場所は、いつでも痛みを伴う。
痛みを大きくしながら、ジタンではだめなのだと訴える。
きしむ心の中で、一秒でも意識をこちらに向けたくて、ジタンは整えた髪の毛を弄ぶ。
「ジタン、今日は何だか髪をよくいじるのね。子供みたいよ」
ふと会話が途切れたときに、無意識でいた仕草をくすりと笑われる。
最後の最後で下手に気づかれなくて、本当に良かった。
「……お前に子供って言われるのは、かなり心外だな」
「何それ!」
頬を膨らましぽかぽかと叩かれる。
お洒落には気づいてもらえなかった。けれど、こうして笑えるなら。




「……損な役回りですね」
「本当にな」
帰り際、いつも城を通る時に顔を見せる女兵士がぼそりと告げる言葉に、苦笑するしかない。
「…………今日、髪形も少し変えられて、とても素敵です」
「……ありがとうな」
最低限のお礼しか言えなかったことを、今だけは許して欲しい。
どんなに周りに格好いいと褒められたところで無意味なのだ。
ジタンの最後の精一杯の着飾りは、たった一人にだけ捧げられていたのだから。
見事に打ち砕かれた想いも、いつか笑って話せる日が来るだろうか。
「もし婚約者がクズ野郎だったら、ガーネットがいくら嫌だと言おうとかっさらおうとしたと思うよ。
でもあんなに大事にしていて、ガーネットが幸せなのなら……オレには、もう背中を押すことしかできない」
次会うときは、きっと彼女の結婚式だ。
そう思うと、自然と口から出てしまう。
隠し続けた恋心を、願いを流してしまうように。

抱きしめて、キスをして、支えるのは自分でありたかった。
悲しみと悔しさと怒りに塗れても、それを過ぎれば、ジタンに浮かぶ想いはたった一つ。


「オレは、ガーネットの幸せしか、願っていないから」

おめでとう。
どうか幸せに。



手を振る愛しい影に背を向け、声を殺して泣いた。


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コンセプトとタイトルは同名の曲から拝借。あまりにも衝撃を受けてががーっと書いてしまったものです。
異色の話ですが、振り振られでこの二人が別れるなら振られるのはジタンだと思います。
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