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色を失った月明かり(時:テラ脱出後 ジタガネ)/
ワンモアタイム(時:EDクジャ救出時 クジャ+ジタン)

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色を失った月明かり
ダガーは心配だった。
テラから脱出し、黒魔道士の村にジェノム達を送り届けたまではいい。
とにかく早くやらなければいけないことが多すぎて、時間に追われていたからだ。
しかし、今のように少しでも落ち着いては、嫌でも考える時間が出来てしまっただろう。
いくら本人が大丈夫だと言っていても、今まで思っていたことをそう簡単に変えられるとも思えない。
だからその夜、彼女は自分の寝床から抜け出した。
寝ている仲間を起こさぬようにそっと外に抜け出した後、
「おねえちゃん?」
予想外に声をかけられた。
「どうしたの、ビビ。眠れないの?」
「ううん。ジタンと話してたんだ」
「あなたも?」
自分と同じことを考える人間はひとりではなかったか。
なんとなく先を越された気分になる。
「おねえちゃんも?」
質問を質問で返されつつもうなずくと、ビビは帽子を直す。何かを考えているのだろう。
そして考えがまとまったのか、ひとりでうんと頷いた。
「ジタンならあっちにいるから」
「え? あ……ありがとう」
そして黒魔道士のお墓の方を指したかと思うと、ささっと自分の寝床へ向かってしまった。
何を一人で納得していたのかと首を傾げたものの、とりあえずビビの言う通りの方向へ向かった。

黒魔道士達のお墓より少し先の草原で、彼は何をするでもなく座っていた。
近づいていっても反応は見られないので、了承と受け取り隣に座る。
「……眠れない?」
「んー? いや……なんとなくな」
ぼうっと夜空を見つめるだけの瞳が気になって声をかけると、その雰囲気通りの答えが返ってくる。
こちらを向いてもらえず、会話も続かないのが落ち着かない。
「……その、大丈夫?」
「大丈夫じゃない、って言って欲しいのかい?」
もう一度口を開くと、即座に言われた言葉に詰まってしまう。
ただ、向こうもそれを感じて我に返ったのか、軽く手を振る。
「……いや、今のはすごく意地悪だ。気にしないでくれ」
それきりまた訪れる沈黙。

「……………本当はな、まだどうしたらいいのかわかんないんだよ」

ダガーがもう一度口を開こうとしたところで、ジタンがぼそりと呟くのが聞こえた。
「自分はものすごく珍しい人種なんだとは思ってたよ。でも、ただそれだけだと思ってた。
 そしたらいきなりガイアの生まれじゃないだのクジャと一緒だの言われて、しかもその星はあっという間になくなっちゃうしさ。
 まだまだクジャはほっとけないからこのままって訳にもいかないし……結局何もわかんないままで」
もう頭ん中入んない、とジタンは長いため息をついた。
そんな動きすら、すべてを見逃さぬようじっと見つめる。
「……これでも数年前は本当に悩んでたからさ。どうせならそのときにやって欲しかったな」
その視線が居心地悪いのか、頭をぽりぽりと掻く。
その中で無表情に近かった表情が、ふっと笑顔になる。しかし、それは自らの過去や姿を嘲るだけのもので。
「……まさか、血のつながった家族なんていなくて、自分が人工的に作られてたなんて、思わないよなぁ……」
そして顔をそむけた瞬間、反射的に体が動いて、ジタンの体を抱きしめた。
「……オレ、ビビのこと、わかってやってるつもりだったのに、全然そんなんじゃくて……
 きっとどこか他人事で、無神経な言葉で傷つけたことがあって……あいつ、あの時きっとこんな気持ちで……」
腕の中のジタンは震えていた。それは自分の境遇を嘆くと言うよりは、後悔の言葉だった。
ダガーに抱きしめられたままでいることが、今の彼にできる精一杯の甘えなのだろう。
でも、とダガーは先ほどすれ違ったばかりのビビの姿を思い浮かべる。
「そのビビは、気にしていなかったんじゃないの?」
本当に傷ついて、嫌になっていたのなら、今ジタンと話などするはずない。
ビビが何を話したのかはわからないが、自分より先に行かれて悔しいくらいだ。
「……笑ってくれたよ。『ジタンと同じで嬉しい』って
 ……『ボクとジタンがこんな風になれたんだから、きっと黒魔道士とジェノムのみんなだって仲良くなれるはずだよ』とも言ってた」
今度はうつむく。でもそれは悲しいからじゃなくて、嬉しいからのはずだ。
「ビビは……いいえ、みんなあなたが好きなのよ、ジタン」
自分でもびっくりするほど優しい声音が出た。けれど、これは紛れもなく本心だ。
ジタンは知らないだろう。パンデモニウムのとき、自分達がどれほどいなくなったジタンを心配したか。
ジタンを信じすぎるあまり、彼の孤独を推し量れなかったことを、どれほどみんなが責めていたか。
きっとビビは、自分と似ているからだけにさらに心配だったはずだ。
立場だけでなく、ビビを傷つけた記憶があるなら、自分を責めるだろうと言うこともわかっていた。
ビビが一人で何かを納得していた理由が分かった気がした。
「……今までなら、いろいろ一人で押し殺せたんだけどな」
ジタンはたはは、となんとも力ない笑いをする。
「昔は誰かにわかってもらおうとしてもむなしくなるばっかりでさ……
 だからひとりで耐えられるようになったときは、自分がちょっと強くなったように思えたんだ」
震えは消えたのでとりあえず腕を放してみても、まだ笑顔にはさみしさが残っていた。
昔のことを思い出しているのだろう。
「だからあのときは、みんなの優しさに甘えたら、自分が弱くなるんじゃないかって思ってた。
 でもそんなんじゃなかった。みんなオレの味方なんだって、自分の強さの一端になるだけなんだって、そう思えた」
今はジタンの言葉を遮りたくなかった。でも同意を示したくて、代わりにジタンの手を強く握る。
「……みんなが来てくれて、うれしかった」
そこで初めてダガーに顔が向けられる。やわらかい笑顔が綺麗だと思った。
「……でも、まだオレに時間が必要なのは確かなんだ」
一転、真剣な表情になる。
「あんなことになったし自分の生まれが違う星なんてショックだったよ。
 ……でも、焦がれてた故郷だったのも確かなんだ。
 オレの記憶から消えてくれない青い光が、やっと形になった場所だったから」
いつか昔話をしてくれたときの彼は、確かに懐かしむような感じがあった。
いくら嫌悪しても焦がれていた昔は消えない。完全に憎んだりは出来ないのだろう。
「だから整理する時間が欲しいんだ。
 あの星は結局オレにとってなんなのか、オレって言う存在は何なのか。そもそもテラってなんなのか。
 ダガー達が言ってくれる言葉とは違うもので……オレの中で決着をつけたい。
 今はまだ、混乱してるから」
腕を組むいつものポーズ。それだけなのにほっとしてしまう。
「どんな答えが出るかわかんない。もしかしたら帰りたくなるかもしれないし。
 いや、もう壊れてるじゃんとか言うのは無しな。心情的に。
 もしかしたら、記憶から完全に抹消するかもしれない。
 ……もうあんなことにはならない。でも、また迷って、自分がわからなくなったりしたら……。
 ……そのときは、また……オレの側にいて、支えてくれるか?」
選ぶように言葉を紡ぎだし、最後にまたダガーの方を向く。
心配げに揺れる瞳をとてもいとおしく思う。答えなんて、あの時に出したようなものなのに。
「当たり前よ、ジタン。言われなくても。……でも、勘違いはだめよ」
答えを聞いた瞬間に和らいだ表情が、またすぐに固くなる。
「もしまたジタンがあんな風になっても、何度でも元に戻すわ。
 自分の存在が私やみんなにとってどれほどか、心に刻んでくれるまで」
「……うん、頼りにしてる。ありがとう」
そこまでは考えていなかったのだろう、ジタンは目を見開いたが、すぐに照れくさそうに笑った。
最初に抱いていた心配が霧散していくのを感じた。
「もう大丈夫そうね」
「うん。もう平気だ。独りでなんでも抱え込むのが強さじゃないってことに、オレは気づけたから」
ジタンが笑う。いつものとちょっと違う、幼くすら見える笑顔。ダガーもつられて笑った。
「……でも困ったことがひとつ出来ちゃったんだよね」
人差し指を頬に当てる。あまり困ったように見えないが、小さなことでも心配の芽は摘んでおくべきだろう。
「どうしたの?なんでも言って」
「いやな、そんなこと言われたら、ずっとダガーに側にいて欲しくなっちゃうから」
「何言ってるの、ずっと側にいるわ。そうじゃなきゃ支えられないじゃない」
ダガーはその言葉の真意をすぐに理解することが出来なかった。
額面通り受け取ったからこその即答だったが、言い終わる頃にはジタンが真っ赤になっているような気がした。
「…………う、うん、ありがとな。じゃあ明日もあるんだしさすがに寝るよ。
 本当にありがとう。おやすみ」
「え、おやすみ?ちょっ、なんで……」
赤くなったのかどうか確信を得る前に、いつの間にか立ち上がって大股歩きであっという間に去ってしまう。
(……どうしたのかしら)
流れに完全に置いていかれ、何かまずいことを言ったのかもと思って、ダガーはやり取りを反芻してみる。

「!!!」

そして気がついた。
「いえ!その、ちがっ……そんなつもりじゃなくて……え、だけど違うって訳じゃ……」
誰に言っているのかもわからない、弁解とも言えない弁解が夜風に流れていく。
頬を撫でていく夜風が途端にとても気持ちよく感じられた。うう、とダガーは唸る。
「……そういうつもりなら、もっとはっきり言って欲しいわ……」
揺れる草木が、笑っているように思えた。
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無意識プロポーズ+返答で真っ赤になってうろたえるジタンと、テラに対する様々な心情が書きたくて…。
本当はビビと話す場面も考えてたのですがうまくまとめられずボツに。ビビはジタンを慰めていたのでした。
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ワンモアタイム


僕は死ぬんだ。

そう思った瞬間、溢れる恐怖を抑えきれなかった。
でも同時に知った。
その恐怖を吐き出した瞬間、とてつもなくすっきりした気分になっていることを。

どうせ死んでしまうのなら、すべてを巻き込もうとしたのは本気だった。
でも、戦いの中で全力を出して、怖いと言う感情までもを振りかざして。
それを突き抜けた青い瞳が、赤く輝いて目の前に迫ったとき、眩しく輝き続ける命の炎を見て、魅せられて。
僕も一緒に燃えた気がした。

だからもう満足だったんだ。
なのに。


「さて、今度はオレ達の番だ。さっさと脱出しないとヤバイぜ」


君という人は、本当に……。

本当に馬鹿じゃないのか。
僕はもう死ぬのに。許しを乞うには大き過ぎる罪を抱えているのに。


「この世にいらない命なんかないさ……」


でも僕はもっと馬鹿だ。
こんなことになってまで、ジタンの言葉にすがりたいなんて思ってる。

もし時間があれば。
もし君ともっと早く話していたのなら。
もし僕が素直に自分の感情を表していたのなら。

そんなもしもを、ここにある体温に浮かべてしまう。
「……フフ、でも遅すぎたようだね……」
拒んで来たのは、僕なのに……。


「おいっ、寝てる場合じゃねぇだろ!」


ジタンの声がこだまする。
目の前が暗くなったのは、そんなよく響く子守唄のせいだと思ったのに。

ぱっ。

赤い花が咲いた。
目を開けた僕の前に、命を滴らせる蔓の先が見えて、ようやく思考回路が回り始める。
「ジ……」
どさりと力なく倒れ込んだ体の、ぬるりとした温かさに思わずぞっとしてしまって――先ほどまで自分がそうしようとしていたはずなのに――、
動かない手が震えた。
まさか、そんな。

「……ジタン! ジタン!」
僕をかばったっていうのか。
本当に、君は本当に本物の馬鹿だ!
簡単に逃げられる機会をみすみす逃して、自分が死にに来たのか!
「死ぬな! ここで君が死んだら――」
今度こそ僕は、なんと言ったらいいんだよ!

そんな僕達を、イーファがまるで笑うように血で濡れた蔓を揺らす。
まだ蠢くそれらは、命あるものを根こそぎ排除しようとしていて、再度こちらを貫こうとするのが見えた。
その先がジタンの心臓だと気付いた時、信じられないほど体が動いた。
「――――フレアッ!!!」
中心近くに放てば、簡単に燃えて一気に吹き飛ぶ。これが効いてくれてよかった。
「ジタン……」
ただ仕方なかったとはいえ、至近距離の魔法はジリジリと肌を焼く。
虫の息のジタンのため、魔法を繊細に操作する力は僕にはもうない。
でもこのままじゃ……。
何とかしなければ、何とかしなければ。
「! リフレク!……フレアっ!」
使えるのを忘れていた。
直後に放ったフレアが僕にも跳ね返るけど、構わない。
蔓にだって跳ね返っているんだ。あっちは一本が燃えれば次に伝線する。
次へ次へと燃え移る蔓たちに、他の蔓も戸惑っているように見えて、小気味いいくらいだ。
思わずニヤリと笑ってしまったが、それが勘にでも障ったのだろうか。
一度動きを止めた蔓が、ぶわっと溢れて僕達を囲む。
瞬間、時間差で蔓が襲う。
「このっ……フレアッ!」
フレアを放っても、次の詠唱の間に、蔓が到達しようとしていた。
「くうっ!!」
ジタンがそうしてくれたように体を覆いかぶせると、深くわき腹に刺さった。
新たな流血と痛みに意識が一瞬飛びそうになるのを、目の前の光景が引きもどしてくれる。
これをジタンは心臓近くに受けてる。そうまでして僕を守ってくれた。
「フレア、――フ、うう」
痛みで目がちかちかして集中できない。
その間にも蔓は襲ってきてるのに。盾になることしか出来ないのか。
扱いきれない力を持っていると、破壊のために生まれたとまで言われたのに、こんな時に。

もう一度でいいから力が欲しい。

そう強く願った。今度は自分の為じゃない。


ただ守りたいんだ。
自分に初めて手を差し伸べてくれた人を。
自分を守ってくれたから、だから。


(ジタンを、守りたい!)



「――――――――」
その瞬間は、花が開くようだった。


……嘘だ。もう魂は使い切ったのに。
それでもまた魔力が溢れだしてくる。
人のものまで使って欲しかった力、ジタンより濃い紅が、今本当に手に入った。
「フレア、フレア、フレアっ!」
それでも、僕の魔力の源はとうに底をついている。
この力がどこから来ているのかなんてわかりきっている。
だからって、フレアを放つのはやめられない。
ここでの道は、二人が死ぬか、ジタンが生きるかのふたつだけ。ジタンを死なせることは選択肢にある訳がない!
今の僕は戦うだけ、助けるのは、悔しいけどあの子に頼もう。
「舐めるな、イーファ!!」
所詮お前はテラの産物、テラの人間に敵うはずがないんだよ!



「……っは、はぁ――ごほっ……はぁー…………」
気がつけば周りは焼け焦げた蔓と根だらけ。その中心にいる僕と君。
全身の赤が引いて、青白い僕になる。
体が震えるけど、まだ終わりじゃない。ジタンはずっと血を流しているんだ。
「……く、ふ、ケアルガ……」
今ほどこの魔法が使えてよかったと思ったことはない。
傷はふさがったけど、流した血はどれくらいだろう。
「……はやくできなくて……ごめん」
返事がないことに、これほど寂しさや焦りを覚えたこともない。
このままだときっと死んでしまう。
でも僕にはもう何もできない。
早く来てくれないか、早く、早く、早く…………。




「……クジャ? と、……ジタン?」

よかった。まだテレパシーは通じた。
これでジタンは助かるだろう。
そう思ったら、急激に眠くなってきた。
「ジタン、を……よろしくたのむ……」

それと。

「ジタンに、ありがとう……と……」
手を差し伸べて笑ってくれて。
僕は強かったことを教えてくれて。
誰かのために戦う機会を与えてくれて。

こんな僕に綺麗に死ねる場所をくれて、ありがとう。


そして、今度こそ僕は眠った。



もしもう一度夢を見ることが出来たなら、今度は君の傍で笑う物語でありますように。



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タイトルはポルノグラフィティの同名の曲から。曲の内容からはかけ離れた内容ですが、それでもこの曲のおかげで書けたので。
大体入れたいシーンは書いたのですが、戦闘シーンをテンポ良く書くのは難しい…
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