Believing Santa 〜Is there a Santa Claus?〜 |
ある人があたたかい暖炉のそばで、子供達に言いました。 ――――――あなたは、サンタがいると思いますか? 子供達は口々に『いる』『いない』の2つの言葉を繰り返します。 その2つの言葉にその人はどっちが正しいの何のとは言いませんでした。 ――――――サンタがいるのかどうか、信じるも信じないもあなたの自由です。 ある人はそう言いました。子供達はしーんとしました。 答えは必ず『いる』『いない』のどちらかだと思ったからです。 ですが、その人はそれだけで話を終わらせず、こう付け足しました。 ――――――が、私がこれから話す世界にはサンタが存在します。 星空の下でトナカイではなく、空飛ぶ船に乗って来るのです。 こっそりとプレゼントをおいて、去るのです。 とても優しく、美しいサンタ達。 今日はそんなサンタ達の話をしましょう。 そこでその人は、子供達に優しく語り始めました。 |
びりぃぶ とぅ さんた 〜Is there a Santa Claus?〜 |
「・・と言う事で、またこの日がやってきた。」
ここはリンドブルムのアジト。そのアジト内にボスであるバクーの言葉が響く。
外にはちらほらと雪が降っていた。
「またこの仕事ずらか〜〜・・。」
「文句あるのか?」
シナがため息をつきながらそう呟くと、バクーの鋭い目線が飛んできた。
シナは急いでバクーから目を反らした。周りの団員が笑っている。
「まっ、ちっちゃい子に『モンスターが来たよお母さん!!』なんて言われりゃねぇ〜??」
「ジタン、五月蝿いずら!!」
ジタンがからかうようにそういうと、シナはぷんぷんと怒り、周りはもっと笑っていた。
「で・・でもっ・・ジタンは『こんなかっこいいサンタさんいないよ!!』って言われたんじゃなかったん?」
ルビィが笑いをこらえながらそういうと、今度はジタンがうっと言う顔をした。
「・・でもまぁいいんじゃん?オレだってわかったら母親の方がオレに握手とか求めたんだぜ〜?」
ジタンは得意そうに言った。タンタラスの花形であり、
容姿端麗で優男のジタンは若い娘だけでなく子供から老人にまで人気がある。
「静かにしろ・・。」
バクーが静止をかけるがバクー自身もシナの昔の体験談を思い出して笑っていた。
「・・・とりあえず、今年もあの格好してやるのか?」
「それしかないっスよ。」
笑い終わったブランクが質問をすると、マーカスが返した。
「マーカスの言うとおっ・・・ヘブシュン!!おっと、作戦は今夜決行だ。」
「わかってるって。」
「これってまた盗みとは違う緊張感があるのがいいやなぁ〜。」
「ある意味不法侵入の犯罪だがな・・・。」
「子供達のためっスよ。」
「でもばれるのはこりごりずら・・・。」
「・・じゃ、決まりだな・・。」
色々と話した後バクーが最後に言うと、全員うなずいた。
・・さて、ここでさっきから何の話をしているかと言うと、
簡潔に言えば『サンタごっこ』である。
この日・・12月24日には、タンタラスが毎年アレクサンドリアとリンドブルムの、
子供達のいる家に入りこっそりとプレゼントをおいていく、と言うものである。
ある意味不法侵入で捕まったら裁判にもかけられるが、タンタラスならばれてもすぐ逃げ出せる。
サンタの格好をして入るため動きにくいのではあるが、
子供が見ても『サンタさんだ!』と思ってくれることもあるので特には問題ない。
さっきのシナの話は例外だが・・・。
シナは、この『サンタごっこ』である家に入ったところ、子供に顔を見られて、
『モンスターが来たよお母さん!!』といわれ、かなりショックを受けたらしい。
ジタンも同じく(正体まで)ばれたのだが、駆けつけた母親がジタンの大ファンだったため、
握手とサイン、今度の公演のチケットまで求められたと言う事だった。
・・と以上の理由があってシナはこの行事が嫌いなのだが、
他の団員は子供達のため張り切ってこの仕事に取り組むのであった。
そしてとにかくこの仕事は決行したときよりその前の準備が大変なのだ。
何故かってまずアレクサンドリアとリンドブルムにいる、
子供達の数とそれぞれがいる家を把握し、予備も含めその分プレゼントを買って、
包装紙に包み、袋に人数分に分けてプレゼントをつぶさないように入れ、
サンタの衣装をつくって(全員背がやたら伸びるため)やっと準備OKなのだ。
でも次の日の子供達の嬉しそうな顔を見ると、これがなかなかやめられないのだ。
それが今夜、その最終段階が決行されようとしていた。
――――――サンタにも色々と事情があるんだよ。 サンタはおじいさんだけじゃない。 サンタのイメージを、勝手に作ってはいけないよ。 |
――――――数日前――――――
「で?まだどこの区域調べてないんだよ?」
「アレクサンドリアの城下町全部や!」
「ええ!?ちょい待て、調べてなさすぎだぞ!?」
「しょーがないやん!こっちは服作りで急がしかったんや!
ブランクと一緒に二手に分かれて調べたらええやん!」
「ブランクはリンドブルムの子供たちのリスト持って買い物に行った!」
「ええ〜〜??!」
ジタンとルビィがアレクサンドリアの中を超高速で走りながら言い合っている。
もうクリスマスが近いため、タンタラスは団体で焦っていた。
このままでは全部の子供達のほしいものを把握してプレゼントすることができない。
半端な数の子供にやっては逆にまずいため、かなり急いで把握しなければならなかった。
ジタンはアレクサンドリア側の子供達を調べてもらおうとしていたのだが、
ルビィは団員の服を作るため大忙しで、それができなかったのだ。
そのせいでアレクサンドリア側の子供達の方を調べられなかったため、言い合っているのだ。
2人は高速で走りながら、ぎゃあぎゃあ言い合いつつもしっかりと家の様子や子供達の数などをメモしていた。
「・・まぁいいや、じゃあルビィあっち調べてくれよ!オレはこっちやるから!」
そう言って違う方向に走り出すジタンにルビィはうなずいた。
「うっわ・・何だよこれ・・・。」
ブランクはリストの通りの数と予備の分のプレゼントを買ってアジトに帰るなり、脱力した。
そこにはルビィが心をこめて作ったサンタ衣装の数々があった。
いろいろなサンタ衣装の上に『ジタン用』『ブランク用』『ルビィ用』などと書いた紙が置いてある。
その自分の衣装を見てブランクは脱力したのだ。
他の団員のは色も一つに決まっており、綺麗に縫ってあったのだが、
ブランクので足りなくなってしまったのか、ブランクのだけいろいろな色のつぎはぎが・・。
「ルビィーーーっ!!!!!どういう縫い方したんだよーーーーーーッッ!!!!!!」
アジト内にブランクの怒りと悲しみのこもった声が響きわたった。
それは山彦のように綺麗に響いた後、だんだん小さくなって消えた。
「オレ・・こんなの着るのかよ・・・。」
哀れな自分のサンタ衣装を見て、ブランクはただただ沈むのだった。
哀れ、ブランク・・・。
「はあ・・どうしておいらはいつもこんなに不幸なのずら・・。」
「シナさんよりもっと不幸な人はたくさんいると思うっス。」
「どうしてジタンの方がモテるずら・・・。」
「かっこいいからじゃないっスか。」
「毎日お手入れしているのに何でそんなに恐いずらか?」
「もともとの顔は治らないっスから。」
「ブランクでさえファンレターもらった事あるのにどうしておいらにはこないずら!」
「ファンがいないからじゃないっスか?」
ここではシナとマーカスがブランクの買ってきたプレゼントを、
綺麗に包装紙に包んでいる所だった。
包装紙の種類はキラキラと輝くものや一つの色だけのシンプルなものまで幅広い。
包む途中でシナが何かぶつぶつ言うたび、マーカスは返答(と言うかツッコミ)をしていた。
シナもマーカスも見た目に似合わず手先が器用で、包装紙を綺麗に折り、
余分な分は丁寧に切って、これまた豊富な種類のリボンで丁寧に結んで積んでいく。
もうアジトの2階のほうには山とプレゼントが積まれつつあった。
「は〜っこうだよ〜〜♪・・不幸になーるーの〜〜♪」
「何歌ってるんすか・・。所詮その顔じゃジタンさんや兄貴には到底勝てないっスよ。」
「・・・・・!!」
何気に酷いぞ、マーカス。
かなりショックを受けたシナは今度はまた別のリズムで悲しみを歌っていた。
可哀想に・・。
「これはどの袋に入れるでよ?」
「その袋だでよ。」
「おーい、それでつぶすんじゃねぇぞ。そーっとしろよ?そーっと・・。」
一方2階ではバクーとゼネロ・ベネロが人数分の袋にプレゼントを詰めていた。
ゼネロとベネロは特にプレゼントを入れるのに気をつけていた。
何でってあのハサミみたいなのでせっかくのプレゼントを潰してしまったら、
買ってきたブランクと包んだシナとマーカスに怒られるからだ・・・・・。
「ボス、そんなにいちいち言わなくてもわかってるでよ。」
「力を調整してるから大丈夫でよ。」
ゼネロとベネロは順調に袋にプレゼントを詰めていた。が。
ぐしゃっ。
不意にそんな音がした。
その後にとさっ・・と言う頼りない音がした。
そこには、圧力がかかってつぶれてしまったプレゼントの箱があった。
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
沈黙。沈黙。沈黙・・。
「どーするでよ!?どーするでよ!?」
「ブランクたちに怒られるでよ!!」
「だから言ったろうがぁ!!中身は無事か?!」
混乱。混乱。怒号・・。
ゼネロとベネロは慌てて中を確認した。どうやら無事だったようだ。
「ほー・・。」
ばっちり3人(?)の息があった。
とりあえず中身が無事なら多少は怒られるものの再度包みなおせばプレゼントできる。
なのだが・・・・・・・・。
「ヘっ・・ヘっ・・・ヘッブシュン!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・出ちゃった。
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
またしても沈黙。沈黙。沈黙・・。
「・・どーするでよ!?どーするでよ!?」
「何するでよ!!せっかく無事だったのに!」
「うるせぃ!出ちまったもんはしょーがない!!がっはっはっ!!」
混乱。怒号。笑い。
ゼネロとベネロはくしゃみででた唾などがついてしまったプレゼントを見てがっくりした。
バクーはもう気にせず他のプレゼントを袋に詰めている。
後に3人ともブランク・シナ・マーカスに怒られてしまうのであった・・。
――――――サンタは1人じゃないよ。そしてこの時期はとっても忙しいんだ。 だから、せかすようにねだっちゃいけないよ。 |
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― |
「・・・・・色々あったなぁ・・・。」
「そやなぁ・・。」
「思い出したくないでよ・・。」
「全くでよ・・。」
「ああ・・マーカス酷いずら・・。」
「本当の事っス。」
「がっはっはっ!!まぁ気にしないでおらっ、とっとといくぞ!!」
全員でしみじみと今までの準備の事を思い出していた。
バクーは全員を軽く促し、ジタン・ブランク・マーカス・ルビィをプリマビスタに乗せた。
ジタン・ブランク・マーカス・ルビィはアレクサンドリア側を受け持ったためだ。
「んじゃあチケット売れたら売っとくぜ〜♪」
「って!足踏むなよジタン!!」
「こっちは任せるッス〜〜。」
「行ってくるわ〜〜v」
4人は多少騒がしくしながらも、ブランクがプリマビスタのエンジンを起動させて、
リンドブルムの星空の中にプリマビスタが浮かんだ。
「・・じゃあいくぞ。くれぐれもばれんようにな。」
「ふられないようにするでよ〜〜。」
「頑張れでよ〜〜。」
「うるさいずら!!」
4人はプリマビスタが星空の中に消えてゆくまで見送った後、動き出した。
――――――ばらばらに散るそれぞれのサンタ達。 容姿は全然違うけど。みんな優しいサンタ達。 サンタはとても優しい人。意地悪く言っちゃいけないよ。 |
暗闇の中、バクーは鼻歌を歌いながら呑気にプレゼントを配っていった。
バクーはこれでも子供が好きだ。
理由は特にないが、きっと、子供達の顔を見ると、
自分の団の団員達の幼少時代を思い出すからだろう。
――――――サンタも生きてる。子供だっているさ。 時の流れはいつも同じ。だから、サンタはいつまでも死なないわけじゃないんだ。 |
暗闇でもかなり目はよい。
といっても、暗闇の中で動く事が多いので、それに慣れてしまったといえばそうなのだが・・・・・・・。
地図に従ってバクーは靴の泥をはたいてから、音も立てずに家に忍び込んだ。
そして今度はその家の様子が細かく書かれた紙を取り出した。
ガツッ。
「・・・・!!!」
だが紙を見ていたため思いっきりタンスの角に足をぶつけてしまった。しかも小指。
靴をはいてるため素のままぶつけるよりはまだいいが、
それでも結構な痛さをこらえながら階段を上って子供部屋へ向かった。
子供は運良くぐうすうと規則的な寝息をしながら気持ちよさそうに寝ている。
「むにゃ〜〜・・もう食べられないよ・・。」
プレゼントを置くと子供がそう寝言を言った。
今日はおなかいっぱいごちそうを食べたのだろうか。
それならよかったな、とバクーは僅かに口の端をあげて思った。
プレゼントを置き、そしてまた来たときのようにそっとその家から出て行った。
「はあ・・。」
その頃シナは浮かない様子で家に忍び込んでいた。
また見つかりはしないかとあたりを用心深く見回しながら歩いていた。
ここにいる子供は3人で、それぞれ別の部屋に寝ている、とジタンから聞いた。
まずシナは一番自分のいる場所から近い子供部屋から入っていった。
そこではやはり子供が寝息を立ててぐうすうと寝ていた。
かなり熟睡しているのか、夢を見ているような感じでもない。
シナは袋からその子の欲しがっていたものを袋から取り出し、びくびくしながらその子供のそばにそっと置いた。
「ふぅ・・。」
いったん部屋から出てホッとしたあと、またシナは緊張して次の部屋に入った。
今度はさっきの子供よりも幾分大きい子だ。10歳前半だろうか。
どこかで遊び疲れてそのまま寝てしまったのか、パジャマではない服で寝ている。
そっとプレゼントを置いて、シナはゆっくり休めよと思いながら部屋をでた。
そしてあっさりながらもとうとう最後の部屋にシナはついた。
最後はとても小さい子だった。3歳ぐらいの子だ。
とても可愛らしい顔で寝ている。
その子の顔に思わずシナは顔が緩んでいた。
プレゼントをおいてから、その子にシナは、ずれていたふとんをかけ直してやった。
ずっと見つめていたい、やわらかい寝顔。
でもここでそんなに時間はかけられないので、またそっと出て行こうとすると・・。
バッタン!!
「・・!」
足元に気をつけていなかったせいか、おもちゃか何かを踏んづけて転んでしまった。
まずいと思いながら急いで起き上がって後ろを向くと、
さっきの子供は起きてしまっていた。
「・・何してるの?」
無垢な瞳でこちらを見てくる。
シナは誤魔化そうと少し笑った後、一目散に部屋からでた。
「あっ、待ってよ!!」
子供が追いかけるが、シナはもう既に全速力で家を出てしまっていた。
「・・何だったんだろう?」
追いかけるのをやめた子供は疑問に思いながら部屋に戻ると、ふと何かに目を引かれた。
それは・・シナが置いていったプレゼントだった。
「わあー・・・。」
子供は喜んでプレゼントの包装紙をやぶって中を見た。
その中には、その子供が欲しくてたまらなかった、木でできた可愛いおもちゃがあった。
そのプレゼントにさらに喜んで、子供はそれをぎゅっと抱いてふとんに入った。
(・・サンタさんだったんだ。あれはサンタさんだったんだ!)
そう思いながら、満足そうにその子供はまた眠りに入った。
――――――サンタさんからもらったものは、大事にするんだよ。 |
その頃・・・。
「もっと速くできないのかよブランクぅ!!朝になっちまうぞ!!」
「うっせぇ!!これが最高スピードなんだよ!!」
プリマビスタでは、霧のせいで思うように船は進んでいなかった。
おまけに何匹か飛行タイプのモンスターがプリマビスタに突進している。
そのせいでプリマビスタが上下左右に揺れるため、マーカスが酔って吐きそうになっていた。
ジタンが船にあったオーガニクスをもって追い払うものの、あまり意味がない。
「ちっ・・・。」
ジタンは船の外ぎりぎりのあたりまでモンスターを近づけた。
「どうすんやジタン!!そのままじゃ・・。」
「わかってるって!これが狙いなの!!」
ジタンはそのままオーガニクスに力を集中させる。
「『刀魂放気』ッッ!!」
ジタンがそう言い放つと同時に、刀から光の槍が出て、敵に当たった。
そこでモンスターは、突然感覚が狂ったように飛び回った。
うまくいったとばかりにジタンはにやっと笑って続けざまにモンスターたちにその攻撃をあてる。
モンスター達は狂ったように飛び回り、仲間同士で突進しあい始めた。
「オーガニクスの追加効果は『暗闇』!運が悪かったねぇ?」
にっと笑ってジタンは得意そうに刀を自分の頭上でくるくる回した。
ルビィは唖然としている。
「ジタン・・あんたそんなの・・いつ覚えたん?」
「え?皆はできないの?」
ちょっと驚いたようにジタンが言った。
「当たり前やん!そんなことできるの、ジタンだけやで?」
「ジタンさん、すごいっ・・うぷっ・・。」
マーカスも出てきたのだが、また気分が悪くなったのか部屋に戻っていった。
「うーん・・何か突然・・できたんだけどなぁ・・。」
ジタンは腕を組んで考える。
なぜか自分にだけこういう事ができる。
ジタンは自分自身が不思議でしょうがなかった。
ルビィもジタンの不思議さに首をかしげていた。
ガイアの人間には見られぬ容姿と技。
金髪・蒼い瞳・尻尾。
だがどうしてジタンがそんな容姿と技を持っている理由など、今はわかる由もない。
「おっし!ついたぞ。」
ブランクの一声で考えは終わった。マーカスもはいずり出る。
ブランクはそっとアレクサンドリアから少し離れたところに船を止めた。
全員はサンタの格好をして・・・・・といっても若すぎるサンタだが・・・・・。
それぞれに目配せしたあと、4人はアレクサンドリアの町に散っていった。
「さて・・どこから入るかな。」
ブランクは自分の受け持った区域の地図を見ながら、どこから入るべきか迷った。
あくどい金持ちのいるところなら、金目のものは少し盗んでもいいことになっている。
――――――盗むのは悪い人のだけ。少し懲らしめてやるってことさ。 一口に『泥棒』・・いや『盗賊』と言っても、この人たちはとってもいい人なんだよ。 |
「・・ここにするか。」
そしてブランクは靴をはたいて、そっと部屋に入った。
「へへっ、いいもの盗めそうだぜ。」
ここはアレクサンドリアの中でも悪いことですぐ噂となる貴族の家。
奴隷も地位も何もかも金で買う、人間の風上にも置けない者だ。
ここならどれだけ盗んでも証拠さえなければいい。
ブランクはさっさと憎たらしいほど恵まれた子供にちょっと乱暴にプレゼントをおいたあと、
すぐに家捜しを始めた。
「・・・おっ、いいものあるじゃん♪」
五月蝿い鍵をのけ、じゃらじゃらと溢れんばかりの宝石を見てブランクは笑った。
高そうなものばかりを選んで、ブランクはそっとそれを袋の中に詰め込んだ。
「・・ふふん。明日は驚くぞ・・。」
好きなだけ袋に詰め込んだあと、ブランクはそこに笑いを残して去った。
・・次の日には2種類の悲鳴がこの家に響き渡ったとか・・・。
――――――悪い事をすると、また悪い事で返されてしまうんだ。 人に悪い事をしちゃいけないよ。 |
「うっ・・気持ち悪いっス・・・。」
まだ船酔いが残っているのか、ちょっと気持ち悪そうにしながらマーカスは歩いていた。
でもきちんと仕事をこなすのがマーカスの良い所。順調にプレゼントをおいていった。
そして今度は貴族の家に忍び込んだ。
ワン、ワンと犬が途中で鳴いたため、慌ててマーカスはエサをやって犬をおとなしくさせた。
(・・エサでつられちゃうなんて、ちょっと番犬には向かないっスね。)
そう思いながらも、エサでつれたことに感謝しながらマーカスは家に入った。
ちょっとガードが固いため少し時間がかかったものの、そんなに気にするほどではなかった。
「お邪魔するっス〜〜。」
ドアを開けて、そっと足を踏み入れる。
メイドの手によってか、立派な屋敷には塵ひとつ落ちておらず、ぴかぴかだった。
「うひゃ〜〜・・豪華っス・・・。」
マーカスはちょっと羨ましそうに子供部屋を見た。
高そうなじゅうたんを踏みしめて、子供を見た。
とても可愛らしい女の子だった。
寝顔が美しいのだから、笑顔はどれだけ素敵なのだろう、とマーカスは思った。
マーカスの顔が熱くなった。意識が一瞬真っ白になりそうだった。
そこではっとしたマーカスは首をふってプレゼントを置いた。
そして名残惜しそうに部屋を出て行った。
叶うことならば、もう一度出会いたい。
そうマーカスは思っていた。
それが『恋』だと言う事に、マーカスはまだ気づいていなかった。
(・・・自分って、ちょろいッスね・・・。)
だがうすうすとそれには気づいているようだった。
――――――子孫を残す恋だって必要なのさ。 恋をすることは恥ずかしいことじゃないんだよ。 |
「ららららら〜ら〜ら〜ら〜〜♪あたしはサ〜ン〜タ〜〜♪」
変なリズムで歌いながらルビィは歩いていた。
ルビィは女性のためズボンではなくスカートである。そのため寒そうだ・・。
それを歌って誤魔化しているらしい。最初に良く考えればいいのに・・・・・。
「あ〜〜あ〜〜、どこかにカッコいい男おらへんかなぁvv
ジタンとブランクばっかり見ててもちぃっともおもしろくないもんな〜〜・・。」
シナとマーカスは?と言うツッコミは置いておいて、
ルビィはプレゼント配りより『いい男探し』が主題になってきている。
プレゼントを配りながら品定め(?)をしている。
「・・幼すぎやな・・・。」
自分よりも小さい子供にさすがに愛情は抱けない。
「カッコよくないわ。」
今度は歳は同じぐらいだが、あまりにも顔が悪い。
「こいつ彼女もちかぁ〜〜・・・。」
今度はカッコいいのに、彼女がいるらしい。
絵描きに頼んだのか、絵が額に入って立てかけてあった。その中の2人はどう見ても兄妹には見えない。
「・・・・女の子じゃなぁ・・・。」
今度は女の子だった。しかも小さい子。
さすがに女の子では結婚は無理・・・。
「あーもう!!全然いないやんかぁ〜〜・・・。」
結局全部プレゼントを配り終えてもルビィのハートを射抜くような子はいなかった。
「・・・・・あいつ以外に・・ええ男なんて早々おらんな・・・・・・・・。」
ルビィはため息をついた。
「やっぱ忘れるなんて無理やな・・・・・・・・。」
独り言を呟きながら、届くはずのない想いをルビィは募らせていた。
他のいい男がいれば、あの人のことなんて忘れてしまえるのに。
そんな人なんているはずなかった。
少なくとも、今は。
「は〜〜ああ・・・。」
寒さも気にせず、ルビィはずっと星空を見つめていた。
――――――叶わない想いもあるから、『恋』って言うのは魅力的。 だから人はどの世でも、どの世界でも、『恋』の噂が好きなのさ。 |
「・・ったく、どんな家してるんだよ・・・。」
その頃ジタンは、ほとんどのプレゼントを配り終え、
最後に三国の中でも指折りの貴族の家に入っていた。
防犯のためなのだろうか、中は迷路のように複雑で、地図をずっと見ていなければ迷子になるほど。
そのため、ドアも生半可な状態では開かず、かなりの時間をそこでかけてしまった。
見張りもたくさんいたためいざと言うときのためもっていた、
スリプル草を粉にしたものを見張り全員にかけなければならなかったぐらいだ。
「・・こういう仕事であんまり犯罪みたいな事したくないんだけどね。」
全員寝たのを確かめてから、苦笑してジタンは言っていた。
そもそも人様の家に無断で入るのがまず犯罪だが、まぁそこは黙認としておこう。
ここはあくどい貴族ではないため、物を盗む事もできない。
はっきり言って盗賊には喉から手が出るほど盗みたいものがたくさんあるが、そこをぐっとこらえていた。
「はぁぁ。」
そこで短いため息をジタンはした。
いい貴族であるとは言え山のようなお宝を盗めないのなら欲求不満が募るだけ。
用を済ませてさっさとずらかろうとジタンは思っていた。その時だ。
「にゃ〜〜・・・。」
「わ・・・っ!!?」
必死で叫びそうになるのをジタンは必死でこらえた。
そして落ち着いて声のしたほうを見ると、そこには小さな子猫がいた。
「・・な・・何だよ・・おどかすなよ・・・。」
ジタンの心臓は早鐘のように鳴っていた。
この屋敷の猫かと思いその子猫をじっと見てみたが、首輪も何もしていない。
「・・ノラ・・?」
ジタンはそう思った。
「・・っひっ・・!!」
そしてジタンはまた叫びたいほどの思いにかられた。
その猫は尻尾のあるジタンを自分の仲間だと思っていたらしく、尻尾をなめてきたのだ。
「おっおい・・・オレは猫じゃねぇっ・・!!」
叫びたいのを必死でおさえながらジタンは猫を追い払おうとした。が、猫は離れようとしない。
今度はごろごろと甘えてきた。
「・・ったく・・。」
また変に追い払うと暴れるかもしれないと思い、ジタンはそのままにする事にした。
ジタンが歩くと、猫も遅れないようについてきた。
「お前、にゃーにゃー鳴いたり騒がしくするなよ?」
ジタンは猫にそう言った。
本当に伝わったのかはわからないが、子猫はそれに「にゃ!」と答えた。
「・・さてと・・。」
ルビィの書いてくれた地図どおりにジタンは屋敷の中を進んでいった。
「やれやれ・・・やっとか。」
そしてまた数分かけてやっとの思いでジタンは子供部屋にたどり着いた。
子猫もきちんとジタンにくっついてきていた。
「どーして子供1人のためにこんな複雑な屋敷にするかな・・。」
よっぽど過保護な親だと思いながら、これまた豪華な飾りでできたドアをジタンはそっと開けた。
そこでは小さな女の子が寝ていた。
ルビィが調べた所によると、この子は一人っ子のはずだ。
他に調べもれた兄弟がいないかとジタンは慎重にしながら、女の子がいるベッドの方にジタンは近づいた。
(・・可愛い顔してんじゃん?10年後あたりにはきっといい女になるな。)
全然関係ないことを思いながらジタンはふとそのそばにある靴下が気になった。
その中には紙が入っている。
(・・特別に欲しいものがあるのか?調べてる時は別になさそうだったはずだけど・・。)
何故か気になって、ジタンは紙を破らないように慎重に靴下から紙を出した。
紙を開くと、とても小さい文字で何か書いてあった。
やっと読めるような字で書いてあったそれには、こう書いてあった。
『・・サンタさん、どうかわたしに「ともだち」をください。』
それを見たジタンはちょっと驚いて、そして納得した。
多分ここは屋敷を見てもわかるようにとても過保護な親が、
自分よりもっと低級の身分の者と遊ばせてはなるまいと思い、この子を全く外に出させないのだろう。
「・・オレは・・遊んでくれるだけで嬉しかったけどな・・。」
ジタンは無意識にそう呟いた。
多分この子は寂しいのだろう。1人でいつも遊んでいるのだろう。
ままごとも?人形遊びも?編み物も全部全部?
・・つまらなすぎる。
ジタンも1人の寂しさは充分知っていた。
そして、何かできないかと考えた。
まさかこんなものをサンタに頼むとは思わなかったからだ。
『ともだち』とは本来自分で作るものだ。
他人がくれるものではない。
でも、そしたらこの子は?
自分が信頼したサンタにも裏切られて?
・・また、1人で遊ぶのだろうか?
どうしても、嫌だった。
なんとかしてやりたい。けれど・・。
「にゃ〜・・。」
考え込むジタンを見て心配したのか、子猫がジタンに擦り寄って鳴いた。
そこでジタンははっとして、何か思いついたかのように子猫をじっと見た。
「そうだ・・・。お前も、独りなんだよな・・・。」
そして子猫を抱き上げて足の泥を落とし、女の子のそばにそっと置いてあげた。
「・・お前が、その子の『ともだち』になってあげな。な?」
ジタンがそういうと、子猫は満足してわかったようにひとつ、優しく鳴いた。
それに安心したジタンは、そっとその部屋と屋敷からでた。
いつかあの子に、本当に素晴らしい『ともだち』ができるように願いながら。
その次の日には、屋敷からとても嬉しそうな笑い声が聞こえたとか聞こえなかったとか・・。
――――――サンタはとても優しいのさ。 でも、何でも欲しがっちゃいけないよ。 |
こうしてさまざまな思いを募らせながら、
誰にも知られず、タンタラスの役目は終わった。
明日には、きっと、子供達の幸せそうな笑い声が聞こえるのだろう。
それを想像して、タンタラスの面々は静かに、優しく笑った。
そしてジタンはプリマビスタの中で、
小さくなりゆくアレクサンドリアと、美しい朝日を眺めながら小さく呟いた。
「メリークリスマス。」
そこでその人は話すのをやめた。 子供達はもっと聞いていたそうだった。 子供は目新しいものに大変興味を持つ。 サンタの話の中でも奇妙なこの話を聞いて興味をもったのだろう。 そして口々に子供達は言った。 『サンタにあんな人がいるんだ』『本当にサンタはいるのね!』『サンタも僕たちと同じだね』 などなど。 騒がしくなった子供達にその人はしーーっと言うように人差し指を立てて唇に当てた。 素直に子供達は黙ってその人をまっすぐ見つめた。 ――――――このお話が本当かどうかは誰にもわからない。 でも忘れるんじゃないよ。 サンタさんがくれる最高のプレゼントは、『喜び』と『愛』なんだ。 それを忘れちゃいけない。 そして、それを大切にしなさい。 おや、もうこんな時間か。長く話し過ぎてしまったみたいだね。 じゃあ今日はこれでお終い。もう寝なさい。 プレゼントがあったら、こういうのを忘れずにね。 『サンタさん、喜びと愛をありがとう』って。 感謝の気持ちを忘れちゃいけないよ。 それじゃあ、おやすみ。 |
「メリークリスマス。」 |
fin. |
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * あとがき * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
何とかクリスマスギリギリ一週間前に間に合ったものです。
ならなんで早く書かなかったのかって言うと、
あるサイトでFF9のクリスマス企画ノベルをやっていて、
それで『あ、書こうかな〜』と思って書き始めたのです。
これは自分でもはじめて季節を意識して書いたものです。
今までは季節を意識して書いたことは全然ありませんでした。
タイトルは自分で考えたんですが、
恐れ多くも英語の部分は教科書に載ってたものをそのまま使用(著作権の違法?)
文はタンタラスは好きなのでとても書きやすかったのですが、
持ってかえるにはちょっと重すぎたかな、と思っております。
いるかわかりませんが持って帰ってくださった方はありがとうございます。
でもあとで読み直してツッコミする部分がたくさん・・・。
それぞれが中途半端すぎじゃ〜〜・・・・。
でもまぁこれを読んでくれてありがとうございました〜〜。
当時はフリー配布小説でしたがもう配布は終わりにしています。
お世話になりました
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